第二部 1978年
狙われた天才科学者
一笑千金 その1
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ドイツ人がそこまで行儀がいいとは思っていない。肌身離さず持って運んでいけば、それが安全であると考えている」
マサキは俯くと、前の世界でソ連が日本政府の伝令使を毒入りの酒で昏睡させ、秘密文書を略取したことを思い起こしていた。
幾ら、欧州共同体領域内のKGB組織が弱体化したとはいえ、西ドイツにどれだけ浸透しているかは定かではない。
西ドイツ首相の秘書がシュタージ将校であることが判明した、『ギヨーム事件』から、まだ4年の年月しか経っていない。無論、警戒するに越したことはない。
また同盟国たる米国の中にも見えないソ連の工作の手を懼れたのだ。
自らの手によって握った銃剣を、KGB長官の脾腹へ深く刺しこんで、白刃を血で濡らしたが、それだけで怯むスパイ組織ではない……
何れはこのグレートゼオライマーの設計も漏れよう。
余計な茶々が入る前に太陽系のBETAをどうにかせねば、この世界でも安穏としてはいられまい。
タバコを懐中より取り出して、火を点けると気持ちを落ち着かせる。
再び篁の方に顔を向けて、
「それに篁、お前は戦術機開発の技師。城内省の人間でもあるが国防省本部にも自在に出入りできるはずだ。これを持参してどの様な物か説明してほしい」
と伝える。
「そしてもう一つ頼みがある。貴様の妻であるミラとやらにも見せて、1年以内、いや半年以内に作成可能かだけを教えて欲しい。それによっては月にあるハイヴ攻略の見立ても変わって来る」
話している内に、ふと思い出した。
篁は、日米合同で立ち上げた曙計画のメンバーであるミラ・ブリッジスを妻に娶っている。
どんなものを設計していたかは詳らかに知らないが、戦術機開発の技師と言う事は知っている。
鎧衣の話によると、ミラは、音に聞こえる、米国の天才戦術機設計技師、フランク・ハイネマンの恋人。
日本から来た篁に見初められ、曙計画で同じ釜の飯を食ううちに段々と打ち解けていき、ハイネマンより半ば奪う形で結婚したと言う。
鎧衣から、その話を初めて詳しく聞かさた時は、大層気分の良いものでもなかったのを覚えている。
女の貞操など、美丈夫の前では簡単に転がされるのか……
ハイネマンと言う男も恐らくかなりの堅物で、彼女に気などをかけてやらなかったのではなかろうか。
風采の上がらぬ技師と、気立ての良い色白の貴公子では、比べるのも酷であろう。
禽獣の雌が、より強い雄、より美しい雄にひかれるのは世の常。人間とて同じだ。
どの様な事情かは詳しくは知りたくもないが、篁の情炎にミラはすっかりその身を焦がしたのだろう。
柄にもなく人の色道などの事を考えてしまったことを一人悔やみながら、眼光鋭く篁を睨みつける
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