第三十章 わたしたちの世界、わたしたちの現在
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いまの、ヴァイスちゃんの話って……
ま、まさか……
いや、でも、そんなことが……
ごくり、
アサキは、唾を飲み込んだ。
目の前にいる治奈とカズミは、口半開きの狐につままれた顔をしている。二人は、お互いの表情に気が付くと、咳払いしたり頭を掻いたりして、決まりの悪さをごまかした。
治奈はもう一度咳払いすると、涼やかな笑みを浮かべ立っているヴァイスへと顔を向けた。
「遠い遠い話、って語り出しじゃったけど……」
受け取り方、というか、受け取った自分の気持ちをまだ決めかねているというのか、確かめるかの如くおずおずとした態度で震える声を発した。
「その割に、しっかり令和も出てきたけどな」
カズミが、ははっとつまらなそうに笑う。
茶化しただけ。
だけどそれは、内面を気取られぬための健気な努力でもあったのだろう。
緊張の面持ちを隠しようがないくらいに、彼女の顔は青ざめ、身体を微かに震わせていたのである。
「SF映画のストーリーかと思ったけえね」
「だな。未来の作り話なんかして、あたしらになんか関係あんのかよ? お前がその、遠い未来から、時を越えてきたとでもいうつもりかよ!」
食って掛かるカズミ。
青ざめた顔で。
微かに震える、身体で。
「いえ、未来のお話ではありません」
白衣装の少女、ヴァイスは、首を小さく横に振った。
決定的であった。
その言葉と、態度は。
真実かはともかく、なにをいおうとしているかにおいては。
青ざめ悲壮感を漂わせ始めていた治奈とカズミの顔が、もう完全に蒼白といってよいほどになっていた。
鏡がないからアサキには分からないが、おそらくアサキ自身も同様なのだろう。
当たり前だ。
誰だって、そうなるに決まっている。
だって……
戦って、絶望して、身体を粉々に破壊されて、わたしたち、
死ぬのだなと思ったら、生きていて、
でもそこは奇妙な、暗い、遥か遠い未来のような世界で、でも、そこは未来ではなくて……
未来では、なくて……
「ほ、ほじゃけどっ! そそ、そうじゃとしたらっ!」
治奈のひっくり返った大声に邪魔されて、アサキは心の呟きをやめ、視線をヴァイスへと向けた。
白い衣装、ブロンド髪の、幼い外観の、でも妙に大人びた落ち着きのある少女であるヴァイスは、小さく口を開いた。
「はい。わたしが語ったのは、遥か遠い、過去の話ですから。あなたたちにとってイメージすることも難しいような、気の遠くなるほどの」
淡々とした、ヴァイスの口調。
その言葉に、アサキはぶるりと身震いした。
頭が、ほとんど真っ白な状態になっていた。
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