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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第75話 演習 その1
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想敵の後衛を削り取っている。

 そこで仮想敵の指揮官は事態打開の為、大胆な手段に出る。第四四高速機動集団司令部直卒部隊に対する追撃を中止し、その矛先を右翼方向に振り向けたのだ。仮想敵の先頭集団は、直卒部隊と第三部隊の中間宙域に向けて進路を変更し、全速力で第三部隊の右側面へとなだれ込み、第三部隊に対して三対一の半包囲体制を敷こうと試みた。

 だがそれは結果として直卒部隊への攻撃が中止されることとなり、爺様は即座に現宙点での反転迎撃を指示する。それも逃走の先頭に立っていた巡航隊からの規則正しい順次反転により、混乱することなく陣形の反転は一〇分で完了。そのまま左翼方向へ移動しながら、仮想敵の左前側面を削り取る。それを確認した第二部隊は攻撃重心点を直卒部隊同様に左翼方向へと平行移動させた。第三部隊も半包囲の意図を察知し、陣形を左翼方向に広げつつ九時の方向へ後進する。

 仮想敵部隊がさらに第三部隊を追撃しようと繞回運動を続けても、それに合わせるように三つの部隊が移動して、常に攻撃目標点を仮想敵部隊の重心と一致させている。シミュレーションでは青く太いCの形をした蛇が時計回りに回りながら、赤い蛙の一つを飲み込もうと追っかけるも追いつかず、その背中を三つの蛙がしたたかに叩きのめす状況を映し出している。

 もはや消耗戦であり、圧倒的に第四四高速機動集団が優勢な状況だ。味方に比して仮想敵の損害は著しく過大になっていて、あと数時間もすれば計算上では仮想敵に残存艦艇は居なくなる……安心したのも束の間、仮想敵の戦力の一部が、蛇の背中から分離し、直卒部隊への突撃を試みる。僅か二〇〇隻程度ではあったが、その動きは鋭く、火力は強烈だった。

「砲撃じゃ、急速接近中の敵の鼻面を叩きのめせ!」
「砲撃。方位〇〇三〇、仰角〇.三、距離〇.〇〇一八」
「直卒部隊、ポイントXプラス〇.一一、Yプラス二.五、Zプラス一.二。集中砲火、斉射三連!」

 爺様の怒声と、参謀長の冷静な指示。それに俺が計算式を加えて、ファイフェルが指示を復唱する。直卒部隊の十分すぎるほどに弱められた演習モードの砲撃が、突入してくる敵部隊に叩きつけられ、次々と戦列から離れていくが、士気旺盛なのかそれとも破れかぶれなのか、その勢いに衰えが見られない。

「敵艦接近! 艦番から見て、戦艦コンコーディア!」
「主砲斉射! 目標至近!」

 旗艦エル・トレメンドの艦長の声と共に、主砲が煌めきコンコーディアに命中する。普通なら爆発四散するような至近距離の砲撃だが、コンコーディアは外部塗装の一部を焦がしただけで、艦首付近に白旗を上げて進路を外れていく。喜ぶのも束の間、コンコーディアの艦尾の影からさらに戦艦が姿を現す。そこはエル・トレメンドの主砲の死角だった。

「いかん! 進路変更〇二五〇
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