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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第75話 演習 その1
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調停を行わなければならず、参謀長も俺もしばらくそれにつきっきりだった。なにしろ陣形を変えるタイミングで、小戦隊同士の戦列が重なることがあり、ぶつかりそうになった双方が相手方に謝罪を求めて、何故か司令部に怒鳴り込んでくるのである。

 それでもかろうじてゆっくりとはいえ戦隊規模での移動と基礎陣形の組みなおしができるようになっており、いよいよ明日からは部隊規模での陣形変更訓練を開始するということで、今日一日は全休となる予定だった。

 ただ全休日とはいえ訓練宙域内に停泊していても、宇宙船である以上誰かは留守番をしなければならない。それに補給業務も必要だ。燃料やエネルギーに関しては一日の訓練終了後に満タンにされるが、食料などは一週間に一度のペースで補給される。幸いキベロン訓練宙域は同盟屈指の支援設備があり、演習宙域管理部の給糧艦も手練れ揃いで、一五〇〇時にはほぼ全ての艦が搬入を終えたところだった。

 これで後は明日〇六〇〇時の点呼まで訓練関連業務はないなと、戦艦エル・トレメンドの司令艦橋にある自席で、留守番よろしくのんびりと一人成績評価表の入力を行っていた時だった。突然、司令部専用のエレベータから真っ赤な腕章を付けた数名の士官が現れ、俺以外誰もいない司令艦橋に視線を廻し……俺の姿を確認したメールロー中佐が、視線を送ってくる。

「中佐。これは一体?」

 彼は俺の問いに答えることなく、小さく右手を上げて俺を制し、自分の左手首についている端末時計に視線を下ろして一分後。吹き抜けで繋がっている戦艦エル・トレメンドの戦闘艦橋から、戦闘警戒警報が鳴り響いた。人を不快にさせるブザーの長音の繰り返し。俺と同じく留守役だった数人のオペレーターが、文字通り椅子から跳ねて紙コップの中身を盛大に床に零している。俺は戦闘艦橋から中佐に視線を戻したが、中佐の表情は全く変わらない。これはつまり……

「戦闘艦橋! 艦内緊急放送! 『緊急戦闘態勢・機関緊急始動・総員配置につけ』」
 俺は自分でも信じられないほどの駈足で、爺様の席にある司令官専用マイクをとって叫んだ。
「第四四高速機動集団、全艦にも複数回路通信。『各艦機関緊急始動・戦闘戦術コンピューターC八回路を開け』以上!」

 一瞬だけ中佐の視線が俺に向けられたが、それもすぐに中佐の横に立つ大尉に移動して何か指示を出している。だがそんなことを気にしている暇はない。戦闘艦橋から大声で『了解!』との返答があり、俺は爺様の端末に暗証番号を打ち込んで無理やり起動させる。

 艦の外周レーダー情報の受信と艦隊指揮統制プログラムの起動。各指揮官座乗艦との多重連携回路の開放。長距離索敵レーダーの起動と、他艦からのレーダー情報を結合解析させる索敵コンピューターの戦時移行手続き。他にも戦闘態勢に必要な手続きを進めている
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