第75話 演習 その1
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集まった第四四高速機動集団司令部は、俺とマロン少佐の話を聞いて溜息をついたり舌打ちしたりと諦めの感情を見せた。
「グレゴリー=ボロディン少将に寄せ集めとはいえ、先の一手を譲るのはあまり気分のいい話ではないですな。状況によってはワンサイドで終わってしまう可能性がある」
眉間に皺を寄せながら珈琲をかき混ぜるモンシャルマン参謀長の顔は冴えない。集団としての実戦経験を積んでいるとはいえ、三割の要員転出をしている以上、新編制の部隊と何ら変わらない。特にエレシュキガルでは時間不足で艦隊機動訓練を行うことができなかった。全くの新戦力である第四七高速機動集団とは確かに能力差があるとはいえ、攻撃選択権まで譲る程では正直ないと俺も思う。
「釘は刺された以上、訓練は予定通りやるべきじゃろうが……ジュニア、対応できるか?」
『やれ』ではない。『できるか?』と爺様が聞いてきたことに、俺は軽く衝撃を覚えた。これまでもそしてこれからも、仕事量は半端ではない。準備の二週間でブライトウェル嬢が三人分のサンドイッチと共に出勤してくるのは両手の指ほどもあった。特に各部隊指揮官の経歴と戦力から、部隊機動力の限界点を探る集団内評価表の作成には手を焼いていたが、提出された評価表にすら辛口評を忘れなかった爺様が、疑問形で仕事を任せに来るとは考えられなかった。
あるいは、とも思う。爺様はグレゴリー叔父と俺の関係に遠慮してくれたのかもしれない。仮に俺が手を抜くようなことがあったとしても、モンシャルマン参謀長は即座に見抜けるし、俺自身が仕事の手を抜かないことには爺様も一定の評価を下している。だが手抜かりなく『第四七高速機動集団からの奇襲』対策を作成し、グレゴリー叔父がコテンパに敗北するようなことにでもなれば、叔父の出世は遅れる可能性だけでなく、家庭環境にも影響が出るのではないかと。
爺様だってボロディン家がそんな軟な家庭だとは思ってはいないだろう。だが爺様にしろグレゴリー叔父にしろ、誰もがシトレ派と認める軍人だ。同規模の戦闘指揮官を競い合わせて兵の練度を上げるというのはどのような分野でもあることだが、第四四と第四七を意図的に組ませたのは、『誰か』の、何らかの意図があるということかもしれない。
「万事お任せください、と申し上げるほどの自信はありませんが」
だがそれでも、だ。
「叔父の向う脛を蹴り上げるくらいはできると思いますので、是非ともやらせてください」
その回答に何故ブライトウェル嬢が小さくガッツポーズをしたのはよくわからなかった。
◆
訓練開始から二〇日目の九月二三日。
例によって『誰かが一〇〇点出るまで次の課題には進まない』訓練を知らないご新規様の討ち入りを受けつつ、部隊運用訓練でトラブルが続いて、指揮官同士の
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