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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第75話 演習 その1
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 宇宙歴七八九年九月 リオ・ヴェルデ星域からロフォーテン星域

 昇進・昇給があろうとなかろうと、休暇を終えて帰ってきた人間と、休暇なしで訓練計画を立案させられた人間とには、士気と体力に差があるのは仕方のないことだと思う。

 九月三日。旗艦エル・トレメンドの大会議室に集団司令部と第四四高速機動集団の各隊・各戦隊指揮官と第二・第三部隊司令部、それに査閲部からエルヴィン=メールロー中佐率いる一チーム三〇人全員が集まると、参謀長の挨拶も査閲部による訓練宙域説明もそこそこに、俺は訓練内容の説明を彼らの前で説明する。殆どエレシュキガル星系で実施した訓練の焼き直しと割り増しといったところ。

 エル=ファシルとアスターテで戦って生き残った指揮官達は、エレシュキガル星系での濃密な反復訓練が無駄ではないことを知っている。見知ったどの顔にも「メンドクサイがしょうがねぇ」としか書いてない。一方で別部隊から移動してきた指揮官達は「本当にこんな訓練でいいのか」と困惑を隠せない。査閲部の面々はナージー=アズハル=アル・アイン中佐から事前に話を聞いていたのか、もうこれが第四四高速機動集団のセオリーだと認識しているようで、手持無沙汰にしている。

 ただ今回、エレシュキガルでの訓練と違うのは、ほぼ同規模の第四七高速機動集団が同じ宙域で訓練を実施することだ。実施時期が侵攻作戦直前で、規模では格下であった独立機動部隊との共同訓練とはかなり意味が異なる。

 同盟軍は最前線の哨戒隊はともかくとして、四六時中帝国軍と戦闘しているわけではない。一〇〇隻単位以上の戦力が戦うのは、大抵どちらかが戦略攻勢をかける前兆から収束まで。戦略攻勢をかけるのは一年に一回あるかないかだ。ただ一度火が付いた攻勢が長期にわたって戦線を作り上げることはままあるので、常時戦闘しているようにも見える。

 そして高速機動集団という制式艦隊以外では最大級の機動戦力を有する部隊が、同盟軍の中でどういう位置づけかというと、エル=ファシル奪還のような制式艦隊を動員するまでもない規模での戦闘や、大規模会戦における司令部予備戦力といったところだ。それはつまり『ある程度の戦略的な視野と、機動戦力の独立運用能力』を司令官に求めるものであって、規模が違っても制式艦隊司令官に求められるものとほぼ同値である。

 つまりこの演習はただ単に第四四高速機動集団の再編成と再戦力化という意味だけではない。ぶっちゃけて言えば、アレクサンドル=ビュコックとグレゴリー=ボロディンのどちらが、制式艦隊指揮官として優れているかと評価する場でもある。マウンティングというわけでもないだろうが、今後の昇進の評価項目の一つとして使われることは間違いない。

「今回の訓練は小官もなかなか微妙な立場なのですが、小官は第四四高速機動集団の次席参
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