第二十九章 遥か遠い時代のお話
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1
西暦3823年のことである。
地球における人類の文明や科学において、約二千年ぶりに、大きな転換期とも呼べる変化が訪れたのは。
これまでの主流であった量子コンピューティングを、天文学的規模で上回る超高性能コンピュータが、実用化されたのである。
グラティア・ヴァーグナーというドイツ人女性が、日本の研究所で開発したものだ。
日本で開発されたこと自体は、特筆すべきものでもない。
資源に乏しく、先進国となるや早くからテクノロジー大国としての道を歩いていた日本。優秀な人材は日本に集まり、最新技術は日本から生まれるのが、当たり前だったからである。
今回、むしろ珍しきは、開発者の人物の方であろう。
グラティア・ヴァーグナー。
純粋なドイツ人であるというのに、絵に描いたような赤毛。
それだけでも珍しいが、さらには女性であり、さらには性格もユニークであった。
小柄な身体に似合わない、男まさりの豪放磊落。
しかし、普通の女性以上に細やかな気遣いが出来て、なのにおっとりしたところや、抜けたところも多い。
この時代の科学者や技術者には珍しく、困っている人を放っておけない、誰からも愛される優しい性格であった。
2
数年の時が流れて、西暦3826年のことである。
地球における文明の歴史、人類の科学史に、さらなる大きな変化、さらなる大きな発展がもたらされたのは。
宇宙空間全域に、あまねく存在しているエーテルという物質がある。
それを超量子コンピュータの伝導媒体に利用しようという、発案開発者以外には誰も理解出来ない高度な技術が実装されたのだ。
その開発者とは、またも赤毛のドイツ人女性グラティア・ヴァーグナー。
実装されたそれは、超次元量子コンピュータと名付けられた。
エーテルとは本来、宇宙空間に満ちていると考えられていた架空の物質だ。
現代科学の黎明期である二千年前に、実証実験により存在が否定されている。
別にそれが覆されたわけではない。
近い概念の物質を、真空中から見つけ出して、その実用に成功したというだけだ。
とはいえ、宇宙学、宇宙感、宇宙哲学が覆されたことに変わりはなく、しかもそれをやってのけたのは一介のコンピュータ設計者。
それだけではない。
彼女は、さらに応用技術を考え出した。
宇宙、という無限に等しい空間を、そのままコンピューティングのメモリー空間として利用出来るようにしてしまったのである。
これが、どれだけのことであるか。
何故、これほどの快挙を、若い女性が成し遂げることが出来たのか。
夢があるから。
インタビューを受けるたびに、グラティア・ヴァーグナーはそう語った。
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