第二十九章 遥か遠い時代のお話
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はない。
単に、もうひとつの現実。
もうひとつの、現在。
なお、陽子と時間という、いわゆる物理を再現しただけといっても、文明があまりに勝手な方向に進んでも困るわけで(将来的には、ともかく)理、いわゆる価値観や基準、つまりは世界を色付けすることは必要である。
神の意思、ともいえるだろうか。
この仮想世界においては、開発者であるグラティア・ヴァーグナーの持つ価値観を元に、理は稼働している。
この一大プロジェクトに、グラティア・ヴァーグナーは残りの人生をすべて捧げ、より緻密な仮想世界を築くべくハードソフト両面での修正を続け、世界を覗き続けたのである。
5
千年以上の時が流れて、西暦5279年。
当然、グラティア・ヴァーグナーはもうこの世にはいない。
だが、超次元量子コンピュータを開発するに至った、その夢、その思想はまだ生きている。
生きているどころか、彼女の夢は地球人類の夢にもなっていた。
仮想世界により導き出された事柄を、現実世界にフィードバックさせる。その研究が、仮想世界をよりよくする。
という相互進歩が、ゆっくりとではあったが続いており、その実効性、有効性に多くの人類が注目していたのだ。
何故5279年をピックアップしたかというと、この年、ついに人類は、仮想世界というもう一つの地球人類を作ったことによる大きな恩恵、見返り、甘い果実を手に入れたのである。
科学の進歩は、まず情報処理技術が先行独り歩きし、物理学は後からゆっくりというのが通例であるが、逆転現象が起きたのだ。
すなわち、仮想世界において、クォーク制御の画期的な新技術が誕生したのだ。
現実世界においても実用可能な理論であることが、実証されたのだ。
つまりは、この西暦5279年、物理科学のレベルが二段飛ばし三段飛ばし的な、飛躍的進化を遂げたのである。
地球上の遠い土地どころか、宇宙への行き来や生活すらも、隣の家に遊びに行くくらい容易なことになったのである。
これまで一つのサーバだけで構築運用されていた仮想世界であるが、これを機に量産された。
その発展した物理学を応用し、宇宙空間に超巨大球形建造物である人工惑星を十五基、製造。
それぞれに、量産された超次元量子コンピュータが積まれ、各主要星系へと向けて送り出されたのである。
主目的は、二つ。
他星系で得た現実を取り込み、仮想世界をより進化させるため。
仮想世界の進化を、現実の地球へとフィードバックするため。
他星系から、簡単に情報のやりとりが可能なのか?
可能である。
宇宙に満ちた新エーテルを伝導媒体として利用するという、千年以上も前にグラティア・ヴァーグナーが発見、発明した|
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