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弘法柿
第二章

[8]前話
「柿の木に実が出来ますね」
「はい、そうなります」
「桃栗三年といいまして」
「柿八年です」
「その八年が経てばですね」
「庭にですね」
「柿が実り」
 そうしてというのだ。
「寺の皆様と近くの村の方々にもです」
「実りをくれる」
「そうなるのですね」
「それが貴方のお礼ですか」
「この度の食に対しての」
「そうです、今から植えさせて頂きます」
 こう言ってだった。 
 托鉢の僧は寺の庭に出てそこに種を入れた、その上で深々と頭を下げて寺を後にした。すると八年経ってだった。
 寺には柿の実が実って僧達も近くの百姓達も食べて楽しみ餓えからも解放された。そうなってからであった。
 寺の僧侶達も寺の近くの村人達も托鉢の僧が誰か聞いた、その僧はというと。
「弘法大師でした」
「あのですか」
「はい」
 そうだったとだ、僧侶は若者に話した。
「これが」
「そうだったんですね」
「そうだったのです、これが」
「まさかここまで弘法大師が来られているとは」
 若者は僧侶に驚きを隠せない顔で述べた。
「思いませんでした」
「あの方は日本全土を回られたので」
「だからですか」
「泉を掘り当てられたり」
「こうしたこともですか」
「されています」
 僧侶は若者に微笑んで答えた。
「そうなのです」
「凄い方ですね」
「全くですね、そしてここではです」
「柿を植えてくれて」
「その柿が僧や村の人達の餓えを救い」
 そうしてというのだ。
「今も実っていてです」
「こうして美味しいものを下さっているのですね」
「そうです、もう千年以上も昔ですが」
 それでもというのだ。
「柿は今でも実り」
「こうしてですね」
「美味しいものを下さっています」
「全ては弘法大師のお陰ですね」
「何でも種ではなく木を植えてくれたともです」 
 弘法大師はというのだ。
「言われていますが」
「柿をもたらしてくれたことは同じですね」
「そうです、そして今も」
「柿はこのお寺に実っていますね」
「左様です、もう一個如何でしょうか」
「いいんですか」
「拙僧も頂きますので」
 それでというのだ。
「よければ」
「それじゃあ」
 言葉に甘えてとだ、若者も頷いてだった。
 僧侶と共にもう一個食べた、その柿はとても甘く美味く千年以上の歴史と弘法大師の心も感じられた。


弘法柿   完


                  2022・2・13
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