第二章
[8]前話
寺を後にしてだ、暫く歩いてふと振り向くとだった。
そこには何もなかった、そこにあった筈の寺が。
それで驚いたが近くに何か気配を感じてだった。
それが虎や豹なら危ういと思いすぐに山を下った。そのまま広固に戻って寺に帰ってみるとだった。
彼の弟子達がすぐに彼のところに集まって言ってきた。
「師匠、長白山に行かれると言われましたが」
「これまで何処に」
「何処におられましたか」
「随分と長かったですが」
「いや、長白山に行ってだ」
そしてとだ、ここで彼はあの山でのことを話した。
「それだけだが」
「それではあっという間で」
「すぐに帰られています」
「そんな筈がありません」
「あの時から二年も経っていますので」
「二年!?馬鹿な」
教白は弟子達の言葉に驚いて返した。
「そんな筈がない、あの寺には一日もいなかったが」
「いえ、それがです」
「二年です」
「二年も寺を空けておられました」
「そうでした」
「まさか」
ここでだった。
教白はわかった、それで言うのだった。
「実は寺で桃を二つ馳走になったが」
「その二つの桃ですか」
「それがですか」
「一個が一年で」
「二個で二年ですか」
「そうだったのだ、では私は寺に一日もいたつもりでなかったが」
それでもというのだ。
「二年もいたのか」
「そうしてですか」
「そのうえで、ですか」
「その寺で二年修行されたのですか」
「そうなのですか」
「そういえば随分と経典を読んだし座禅も組んだ」
こう言うのだった。
「二年分は」
「ではですか」
「あの山で、ですか」
「お師匠様は二年あの山で修行をされまいsたか」
「その様だ、こうしたこともあるのか」
教白は考える顔で述べた、そしてだった。
彼は弟子達にこのことを詳しく話した、そのうえで書き残させた。その為この話は今に伝わっている。桃の不思議な話の一つである。
広個から 完
2022・5・13
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