第74話 休暇はあらず
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わけだな」
そう。俺のようにチートしているわけでもなく、回答に行きつくシトレも相当に政治的な思考ができる男だ。唯一(ではないんだが)の軍事的チョークポイントに築かれた永久要塞。同盟への軍事的侵攻の策源地であり、ここを落とさなければ、同盟に平和はこない。そう錯覚させるに十分な色気を持つ虚空の美女。
「絶世の美女とはいえ、四度求婚してもフラれてばかりなんですから、いい加減に新しい女を見つけた方がいいと、私などは思いますが」
「……新しい女、とは?」
「これは受け売りですが、父の後妻に憧れていた息子が、後妻の幼い姪を引き取って理想の女性に育てて妻にするという昔話があります」
「現実にはあんまり感心しない話だが……それを軍が主導せよと?」
「アーレ=ハイネセンは男性なんですから、あんまり華美な首飾りなんかもらっても嬉しくないでしょう」
「新しい首飾りを強請るような愛人を、財布の厳しい男が許すかね」
「つい最近七〇万人ほど道路の舗装材に使われましたが、そちらはいいんですか?」
俺の比喩が過激で刺激的だったことは、机の上で固く握られているシトレの両拳を見るまでもない。
無人の戦闘衛星と七〇万人が乗っていた一万六〇〇〇隻の宇宙艦隊。遺族年金・一時金・艦艇の補充・補充した艦艇の乗組員の徴兵・それによる労働者人口の減少と国民総所得の減少。どう考えたって前者の方が国家に対する負荷は小さいに決まっている。出来れば首飾りなんてケチなことを言わず禿鷹の二羽も用意して、二つの穴を塞いでしまえばいいのだが、ダゴンの呪いはシトレですら逃れることができないのかもしれない。
結局原作でもシトレは第五次イゼルローン攻略に赴き、あと半歩というところで失敗する。やはりイゼルローン要塞を『奪い取る』ことを目的とすればどうしたってそうなる。俺の挑発というか提案を、第五次の時まで覚えていてもらいたいとは思うが、その時は大将であっても統合作戦本部長ではなかったはずだから、難しいかもしれない。
俺が黙ってシトレのグラスにワインを注ぐと、その音に気が付いたシトレが目を開けて俺をじっと見ている。心が落ち着いてきたのか、頬を膨らませながら大きく溜息をつくと、諦めたように注ぎきったワイングラスを手に取った。
「君は歯に衣着せぬ発言をするが、正直あまり感心しないな。キャゼルヌの悪いところだけ見習う必要はないと思うんだが」
「さぁどうでしょう」
「そのキャゼルヌはとうとう今年結婚したが、君はどうだ。予定はあるかね?」
「さぁ、どうでしょうか」
それ以外に応えようがないなと思いつつ、いろいろと口を回せたおかげかようやく胃が落ち着いてきたので、ソテーの欠片を口の中に放り込んだところで、シトレが一口ワインを含ませるとあらぬ方向を見て呟くように言った。
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