第一章
[2]次話
口だけ男
社長は信頼していた、しかし。
専務の小柳竜太郎は苦い顔で酒の場で話した。
「営業の尾谷君だがね」
「ああ、営業第一課長のですね」
「尾石直寿君ですね」
「社長の傍によくいて」
「それでいつも社長を持ち上げている」
「彼は気をつけるべきだ」
共に飲む自分の部下達に話した、黒髪をムースでオールバックにしていて細くやや鋭い光を放つ目を持っている。細面で唇は引き締まり細い眉の形もいい。背は一六五程であるが身体は引き締まっている。
「それもかなりな」
「社長のお気に入りですがね」
「それでもですか」
「彼は危ないですか」
「そうですか」
「営業部長の中谷君も悪く言ってないがな」
それでもとだ、日本酒を飲みつつ話した。
「彼の同僚や部下達はどうだ」
「上はどうであれ」
「横や下はですか」
「どうかですか」
「そうだ、そちらの評判を聞くとな」
尾谷のそれをというのだ。
「酷いぞ」
「評判が悪いですか」
「そうなんですか」
「その実は」
「あまりにも社長や中谷君がよく言うのでどういった人間か知りたいと思ってだ」
そうしてというのだ。
「調べるとな」
「それがですか」
「評判が悪いんですね」
「そうなんですね」
「自分にとって役に立つ上司や先輩にはへらへらしてだ」
その様にしてというのだ。
「ゴマをすっていいことを言うが」
「そうでないとですか」
「違うんですね」
「部下や後輩は徹底していじめていてな」
その様にしてというのだ。
「手柄も横取りして自分の不始末を押し付ける」
「そんな奴ですか」
「その実は」
「とんでもない奴ですか」
「そうだ、しかも同期でも力のある奴に色々吹き込んでな」
小柳はさらに話した。
「自分が何かしたい相手を攻撃させる」
「自分の手は汚さずに」
「そんなこともしますか」
「そんな奴ですか」
「どうもな、だからな」
それでとだ、小柳は直接の部下達に話を続けた。居酒屋の個室の中でさらに話していく。刺身や焼き鳥等のつまみは今は手をつけず話に専念している。
「かなりだ」
「酷い奴ですか」
「社長は気に入っておられますが」
「中谷君も」
「それでもですね」
「ああ、同期や後輩、部下の評判は最悪だった」
小柳が調べたところだ。
「だから注意すべきだ」
「社長にお話しますか」
「尾谷君を遠ざける様に」
「そうしますか」
「いや、すぐに行っても無駄だ」
小柳は部下達をこう言って制止した。
「中谷君にもな」
「彼がどういった人間か」
「そう言ってもですか」
「無駄ですか」
「今はな、社長も中谷君も信頼している」
だからだというのだ。
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