第一章
[2]次話
桑と洪水
中国の夏朝の話即ち伝説の時代のことである。
ある邑にいる女が妊娠していた時にだった。
「何っ、夢にか」
「そうなの。神女様が出られてね」
女は夫、腹の中にいる子供の父親に話した。
「言われたのよ」
「家の臼や竈に蛙が出るとか」
「洪水が起きるってね」
「言われたのか」
「そうなのよ」
「蛙か」
「そう、若しそういった場所に蛙が出たら」
妻は夫にさらに話した。
「その時はすぐによ」
「どうしろと言われたんだ」
「この邑をを立ち去る様に言われたのよ」
「わかった、なら邑の皆に話そう」
夫は妻に答えた。
「そうしよう」
「絶対にね、ただその時に」
妻は夫にこれまで以上に真剣な顔で話した。
「絶対に振り向いてはいけないとね」
「言われたのか」
「そうなの」
「逃げる様に言われたのはわかるが」
夫は妻のその話に首を傾げさせて返した。
「しかしな」
「それでもよね」
「そこから先がわからないな」
「どうして振り向いたら駄目なのか」
「それがな、しかし洪水が来るというのなら」
「ええ、臼や竈に蛙が出たらね」
「逃げるぞ」
邑の者達と共にだ、夫は確かな声で言ってすぐに邑の者達にも妻が夢の中で神女に言われたことを話した。
そして暫くしてだった。
実際に家の臼や竈に蛙が出た、妻はそれを見て夫に話した。
「出たわ」
「よし、皆に伝えるぞ。お前は身重だから今から逃げろ」
こう言ってだった。
夫は妻を先に頼りになる邑の女に手を引かさせたうえで行かせて自分は邑の者達に駆けながら知らせてだった。
そうして逃げた、邑の者達が邑を出てすぐにだった。
邑を洪水が襲った、皆間一髪で逃れたが。
しかしだ、洪水が邑を呑み込んだ瞬間だった。
妻はつい振り向いて自分達がこれまでいた邑の方を見た、すると。
「何っ、こうしてか」
「そうなの。急にお腹が小さくなって」
妻は自分のところに来た夫に話した。
「それでなの」
「この木が急に生えたのか」
「桑の木に」
「どういうことなんだ」
夫はその大きな桑の木を見つつ首を傾げさせた。
「これは」
「だから振り向くなと言われたのかしら」
「それはおおよそわかるがな」
それでもとだ、夫は首を傾げさせるばかりだった。
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