第三章
[8]前話
「特撮の中で」
「そうですか、じゃあ言わないでおきます」
「あの作品のことはか」
「私も」
「頼むな、俺も言わないしな」
「そうしていきます」
空は約束した、そして実際にだった。
もうその作品の話はしなかった、そして後で先輩に対して言った。
「そんなことあるんですね」
「あれだけ特撮好きな人でもね」
「そうした理由でトラウマになっている作品あるんですね」
「人間ってわからないわね」
「そうですよね」
「直接関係なくても」
その作品から何か影響を受けた訳でなくともというのだ。
「トラウマになるのね」
「辛い時に観たから」
「ええ、しかしね」
先輩はこうも言った、二人で居酒屋で飲みながらで今はビールをジョッキで飲んでいる。
「岡崎さんって明るくてね」
「もう暗いものはないっていう位に」
「そんな人だけれどね」
「そんな人でもですね」
空も言った、やはりビールを飲んでいる。
「そんな過去があるんですね」
「トラウマもあるのね」
「そうなんですね」
「ええ、しかもその過去がね」
「壮絶ですね」
「滅茶苦茶じゃない、幾ら何でもね」
先輩はさらに話した。
「不幸過ぎるでしょ」
「本当にそうですね」
「私だったら壊れてたわ」
「暴力受けて言われて孤独で」
「八方塞がりだからね」
「そうなりますね」
「そこからあの明るさっていうのはね」
それはというと。
「純粋に凄いわ」
「そう言えますね」
「ええ、そのことは素直に思うわ」
「特撮好きの陽気な人と思ったら」
それがというのだ。
「過去もあるんですね」
「人間ってそういうものかもね」
「明るい人でも」
「過去があるものよ」
「そういうものですね」
「確かに明るいけれど」
岡崎はというのだ。
「明るい一面だけじゃないのよ」
「暗い一面もですね」
「そういうことよ、何でも誰でも光と影がある」
「そういうことですね」
「そう、それであの人の影の象徴がね」
「あの作品ですね」
「そういうことなのでしょうね」
こう空に言った、そのうえでまた冷えたビールを飲んだ。空もそうしたが。
以後彼女は岡崎とはその作品の話は一切しなかった、岡崎もしようとしなかった。そうして他の作品のことを楽しんで話したのだった。
観たくない理由 完
2022・3・15
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