第二章
[8]前話
「黄金のお皿に盛られた赤い卵の様なものは」
「いや、棗だが」
「棗?何処かで聞いた様な」
「そなたもよく知っておるだろう」
「私がですか」
「そうだ、余と結婚する前に店で売っていたな」
「あっ、そうでした」
ここで、でした。
王妃はやっと思い出してそれで言いました。
「棗ですね、それは」
「そうだ、しかしそなた忘れていたのか」
王は驚きを隠せないお顔で王妃に尋ねました。
「そうだったのか」
「申し訳ありません」
「謝らずともいい、しかし自分が売っていたものを忘れるとは」
「王、これは当然のことです」
ここで、でした。
大臣がすっと出て来て王様にお話しました。
「王妃様は長い間王宮で王を助けて政を見られてきました」
「それでか」
「お店のことから離れて」
そうしてというのです。
「もう棗のことを考えることも思い出すこともです」
「余を助けてだな」
「政のことに専念されてこられたので」
「それで棗を忘れてしまったか」
「左様です、人は長くそこから離れ別のことに専念しますと」
「ずっと馴染んでいたものも忘れるか」
「そうしたものです」
こう王にお話しました。
「ですから王妃様のことは」
「驚くことではないか」
「それもまた人です」
「そうなのだな、では王妃にはあらためてだ」
王は微笑んで答えました。
「余と共にな」
「棗をですね」
「食べてもらおう、美味いぞ」
王妃に自ら実を一つ取ってでした。
それを差し出しました、王妃はその実を受け取ってです。
お口に入れました、そうして美味しいとにこりと笑いました。王もそんな王妃を見て笑顔になりました。インドの古いお話です。
そしてこのお話には一つ隠されたお話があります。
「この大臣はお釈迦様なんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「お釈迦様なんですか?」
「このお話の大臣さんは」
「そうだよ、お釈迦様の前世なんだよ」
あるお寺でお坊さんが子供達にお話していました。
「お釈迦様は前世でもとても頭がよくてお心の奇麗な人だったんだ」
「そうだったんですか」
「それで王様を助けてですか」
「王妃様のことをお話されたんですね」
「そうだよ、これもお釈迦様の行いなんだよ」
こうお話するのでした、このお話は実はお釈迦様のお話なのだと。
王妃と棗 完
2022・5・12
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ