第一章
[2]次話
一人のチトー
ジョン=フィッツジェラルド=ケネディはホワイトハウスの自身の執務椅子に座って静かに唸っていた。
「共産圏の国だがね」
「それでもですか」
彼の前に立っている司法長官であり実弟でもあるロバート=ケネディが応えた。二人共政治家としてはまだ若い。
「そう言われるのはとの国についてでしょうか」
「ユーゴだよ」
ケネディは弟に答えた、若々しくやや顰めさせた感じの顔でダークブラウンの髪を奇麗にセットしている。
「ユーゴスラビアだよ」
「あの国ですか」
「ソ連に対していてね」
「我々とも関係が深いですね」
「そのことがね」
「我々としては好ましいですね」
「彼はむしろ共産主義者じゃない」
ケネディはこうも言った。
「むしろだよ」
「ナショナリストですか」
「ユーゴスラビアのね」
「それがチトーという人物ですか」
「ナチスと戦いソ連と戦い」
そうしてというのだ。
「あの国を守り統治している」
「そうした人物ですね」
「だから共産主義を掲げていても」
それでもというのだ。
「市場経済も取り入れていて」
「我々とも国交を結んでですね」
「交流を進めてな」
そうしてというのだ。
「第三世界にもだ」
「積極的に入っていますね」
「彼はユーゴスラビアという国のナショナリストだ」
チトー、彼はというのだ。
「そういうことだよ」
「そうですか、しかしです」
ロバートは兄より若々しくかつ兄の様に端整な顔で話した。
「ユーゴスラビアという国ですが」
「かつてはなかった国だよ」
「あの国は多くのものから成り立っています」
「二つの文字」
ケネディはまずこの言葉を出した。
「そうだね」
「我々はラテン文字だけですが」
「彼等は文字が二つある」
「それだけでも違います」
「全くだ、しかもだよ」
ケネディはロバートにさらに話した。
「言語は三つだ」
「英語で統一出来るなら兎も角」
「それも無理だ」
「我が国と違いますね」
「そこもな」
「しかも宗教は」
「四つだ」
今度は宗教の話をした。
「それだけある」
「大きく分けて」
「私達はカトリックで何かと言われたがな」
「プロテスタントの多いこの国では」
「カトリックとプロテスタントだけでそうなのにな」
「四つもとなると」
「どれだけ揉めるか」
それこそというのだ。
「わかったものではない」
「全くですね」
「しかも民族は五つでだ」
「その五つの民族が過去殺し合ってきました」
「惨たらしくな」
「その陰惨な歴史もありますね」
「その結果六つの国が出来た」
五つの民族の殺し合いの末にというのだ。
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