第一章
[2]次話
悪左府
左大臣藤原頼長、摂関家の長者になっており痩せた顔に鋭い目を持つ彼を見て人々は口々に話した。
「学問に秀でた方だが」
「実に厳しい」
「すぐに怒られる」
「兎角恐ろしい人だ」
「悪い、行いが強過ぎる」
悪とはそうした意味で使われていてこうも言われた。
「悪の左大臣殿だ」
「そうだな、あの方は悪左府殿だ」
「全く以てそうだ」
こう話した、そしてだった。
天下の君であられる鳥羽法皇も周囲に漏らされていた。
「左府は頭はよいがな」
「はい、それでもですね」
「あの方は」
「他の者に厳し過ぎる、太政官の話にしてもだ」
法皇はご自身の座から難しい顔で言われた。
「官人の者を殺めた下手人をだ」
「はい、死罪はせぬもの」
「本朝ではそうするものです」
「罪は罪ですが」
「それでも命を奪わぬものですが」
「朕もそれでよしとしたが」
法皇ご自身もというのだ。
「恩赦を与えたことをな」
「それもまた政です」
「本朝の政です」
「下手人にも事情がありますし」
「反省を促しましたが」
「しかしだ」
法皇は暗い顔で言われた。
「そう定まったことをだ」
「ご自身が召し抱える者に命じてです」
「命を奪いました」
「そうしました」
「しかもそれをじゃ」
下手人の命を奪ったことをというのだ。
「天に代わって誅するなぞとな」
「言われていますが」
「ご自身の日記にも書かれています」
「そうされています」
「全く以て悪しき者」
強い者とだ、法皇は言われた。
「あれでは人がついて来ぬ」
「実際にそうですし」
「何かとです」
「困った御仁ですな」
「学があるがな、しかし周りに人がおる」
人がついて来る様な人柄であるがというのだ。
「それは何故かというとな」
「色ですな」
「それによってですな」
「左様ですな」
「うむ、それによるものだ」
法皇は難しい顔のまま言われた、頼長を快く思っておられなかったがそれでも彼のことはよく把握しておられた。
その頼長はというと。
この時は自身の邸宅にいた、そうして周囲にこう話していた。
「今宵もだ」
「はい、赴かれますか」
「そうされますか」
「その様にする、今宵はだ」
ここでだ、彼は。
源成雅という者の屋敷に赴くとした、周りはそれを聞いて驚いて言った。
「摂関家の方ではないですね」
「今宵の方は」
「それでもですか」
「宜しいのですか」
「構わぬ。あの御仁もよき御仁」
資質を備えているというのだ。
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