骸骨と姫
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お姫様の足は、自然と裏庭に向いていました。
小さい頃、沢山遊んだ裏庭。そこにある笑顔と思い出が、いまもお姫様の心を癒やすのです。
咲き乱れる花を縫うようにつくられた石畳の上をちいさな足が歩んでいきます。
薔薇のアーチの前にあるベンチの前で立ち止まり、お姫様はそこに腰を下ろしました。
裏庭までは歩けても、その先をみる自由はお姫様にはありません。あの骸骨がお姫様を閉じ込め、見張っているからです。
どれくらいの間、お姫様は骸骨とふたり、この塔に閉じ込められているのでしょうか。
青く凍える空は、ちっぽけなお姫様を見下ろして嘲笑っているかのようです。
お母様はおっしゃいました。この塔から出てはいけないと。この塔にいれば安全だからと。
けれどお姫様は思います。お姫様の知らない世界を見てみたいと。
背後から、骸骨が来たのがわかりました。食事をしていないのを知って、追いかけてきたに相違ありません。
お姫様は、太陽のまぶしさに睫を震わせました。
「ねぇ」
骸骨の返事はありません。
「手」
お姫様は手を差し出しました。骸骨は動かず、ただじっと立っています。お姫様は骸骨の手をみて、ふいにその手に触れました。骸骨がゆらりと動いたように感じたのは、気のせいでしょう。なぜなら骸骨は、手を握られようが、オルゴールをぶつけられようが、お姫様のことなどどうも思っていないに違いないのですから。
ごつごつとした骨がお姫様の柔らかな手を冷やします。
茶色と黄色の斑模様の骨。
お姫様は骸骨の顔を見上げました。
「汚い」
傷つけば良いと思って、お姫様は吐息をつくように酷い言葉を紡ぎました。骸骨の顔がお姫様の言葉に傷つき、憤り歪んだなら、お姫様はなにか新しい気持ちになれると思ったからです。
しかし骸骨はお姫様の手を振り解くこともなく、かといって握り返すこともなく、ただされるが儘でした。
お姫様はわかりきっていたはずの骸骨の態度に、傷つきました。
お姫様はこれ見よがしに骸骨の手を振り払うと、レースのハンカチで手を拭いました。何度も、何度も。
「おまえなんか、きらい。だいきらい!」
お姫様は立ち上がりました。
綺麗な花も、鳥の囀りも、心癒やせるはずの全てが鬱陶しく、お姫様は湧き出る涙をこらえようと唇を噛みしめながら、走って部屋に戻りました。
はしたなく俯せで、お姫様はベットに縋り付くように倒れ込みました。
嗚咽をあつい羽毛で覆っていたら、また背後に気配を感じました。
骸骨です。ここには、骸骨とお姫様しかいないのですから。
「わたしのことは、もう、ほおって置いて!」
お姫様は顔を上げないまま、叫びました。
「近づかないで。出てってよ
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