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勇者と少女
勇者と少女
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な手を包み込んだ。手袋越しでも、奇妙に短い指は5本以上あるのがわかった。数代にわたって死のゾーンに住み続けている代償をこの子は確かに払っている。それでも言うのだ。ここで生きて死ぬと。その汚れなき真っ直ぐな心で。



 少女は恥ずかしそうに手を引っ込めると、にこりと笑った。



「探している人が見つかると良いね」



「ありがとう」



 俺は少女と別れて手を振る。



 きっと、長生きは出来ないだろうあの少女の命が、生きると言ったあの少女の命を、俺は守らなければならない。



 放射能によって朽ちることを受け入れた少女、地上で暮らす人、地下で生きる人、この地球。その全てを俺は守らなければいけないのだ。なんとしても。



 ひとつひとつの命を、生きると誓った希望が、外部からの圧倒的な力で断ち切られるなんてことがあってはいけない。



 俺は立ち止まり後ろを見た。



 しとしとと雨が降り出してきた。遠く小さくなった少女は、それでも俺を見送ってくれている。霧雨でけぶる木立の中、朽ちかけた家の前で、少女の被っていた橙色のスカーフが靡く。



 俺は少女に背を向けた。そして二度と、振り向くことはなかった。



 この土地が元に戻ると、なんの迷いもなく言えるあの少女のように、前を向き、顔を上げて歩こう。



 まだ、地球がだめになると決まったわけじゃない。未来はわからない。



 そう、百年後には、この宇宙中で一番綺麗な星だと誰もが讃えているかもしれない。



 そのために俺は、俺が出来ることをする。



「勇者は悪いまおうを倒して、せかいを平和にみちびきました」



 小さい頃、俺は絵本が好きだった。



 童話、SF、ファンタジー…とりわけ、俺は勇者に憧れた。



 悪を倒す勇者。地球を救う勇者。



 俺はもう、迷わない。



 何があっても、決してもう迷わないことを、誓う。



 それでも弱い俺が、迷いそうになったら、この木立を思いだそう。俺の守るべき、心優しい少女を。橙色のスカーフを。



 確かにここは、世界中で一番綺麗なところなのかも、しれない。
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