暁 〜小説投稿サイト〜
勇者と少女
勇者と少女
[5/6]

[1] [9] 最後 最初
球上で一番綺麗なところになるって。放射能はみんな消えてなくなって、人もみんな戻ってくるって」



 にこにこと女の子は笑っていた。誰かから、おそらくは彼女の家族から繰り返しそう聞かされていたのだろう。淀みない声だった。現実として、ここには彼女の家族以外は、誰ひとり住んでいないにもかかわらず。



「…どうして、ここに住んでいるの?ここが『ゾーン』であることを知っているのに」



「ここは、生まれた土地だから」



 俺がそう聞くのが不思議で仕方がないように、彼女は首をこてんと倒した。



「ここじゃなくても、もっと緑が豊かで、命を脅かす放射能も少なくて、住みやすい安全なところが沢山…」



 俺はふいに声を詰まらせた。



 なんだか色々な感情がこみ上げてきて、自分が言っていることが、正しいのかわからなくなっている。



 世間一般では、俺の言うことは確実に「正しい」筈だ。しかし、この少女にとっては、きっと俺の言葉こそが「間違っている」のだろう。



 正しいことは、何だ。間違っていることは、何だ。誰か教えてくれないか。「悪は倒す」。しかし、その悪がわからないのだ。



 「魔王」こそが悪だと。倒すことが正義だと。誰か、俺に言ってくれ…。



「ここが、あたしが一番住みやすいところ」



 女の子は白い息を吐きながら、純粋で曇りのない瞳で俺に言う。



「ここが、あたしにとって一番安全なところ」



 俺は戸惑いながらもじっと少女を見た。少女は本心から言っている。『死のゾーン』とまで呼ばれ、外部からの立ち入りは厳しく制限され、接触も飲食も禁止され、木々は赤茶けて枯死し、放射能降り注ぐこの土地が、この世界で一番安全で、一番住みやすいところだと。



「だから、あたしはここを守って、ここで生きて、ここで死ぬ」



 少女の声は静かに、迷いなく俺を射た。



「そうか」



 不思議と荒れていた俺の心も静かに凪いでいた。いや、少女のその声が、荒くれた俺の心の舵を決めた。



 地球はもうだめだと、そういう声も確かにある。地球を見捨て、月へ、宇宙へ逃げている人間も、もちろんいる。それを批判する声もある。ただ、俺はそういう道もあって良いと思う。



 どこで生きるのかは、自分で決めれば良い。どこで死ぬのかも、自分で選べば良い。



 生きたいと足掻くのも、死ぬとわかっていて動かないのも、自由だ。



 人は皆自由だ。自由なのだ。俺も、この少女も。自分の意思で、何だって出来る。



「きみに会えて、よかったよ」



 俺は少女のちいさ
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ