勇者と少女
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球上で一番綺麗なところになるって。放射能はみんな消えてなくなって、人もみんな戻ってくるって」
にこにこと女の子は笑っていた。誰かから、おそらくは彼女の家族から繰り返しそう聞かされていたのだろう。淀みない声だった。現実として、ここには彼女の家族以外は、誰ひとり住んでいないにもかかわらず。
「…どうして、ここに住んでいるの?ここが『ゾーン』であることを知っているのに」
「ここは、生まれた土地だから」
俺がそう聞くのが不思議で仕方がないように、彼女は首をこてんと倒した。
「ここじゃなくても、もっと緑が豊かで、命を脅かす放射能も少なくて、住みやすい安全なところが沢山…」
俺はふいに声を詰まらせた。
なんだか色々な感情がこみ上げてきて、自分が言っていることが、正しいのかわからなくなっている。
世間一般では、俺の言うことは確実に「正しい」筈だ。しかし、この少女にとっては、きっと俺の言葉こそが「間違っている」のだろう。
正しいことは、何だ。間違っていることは、何だ。誰か教えてくれないか。「悪は倒す」。しかし、その悪がわからないのだ。
「魔王」こそが悪だと。倒すことが正義だと。誰か、俺に言ってくれ…。
「ここが、あたしが一番住みやすいところ」
女の子は白い息を吐きながら、純粋で曇りのない瞳で俺に言う。
「ここが、あたしにとって一番安全なところ」
俺は戸惑いながらもじっと少女を見た。少女は本心から言っている。『死のゾーン』とまで呼ばれ、外部からの立ち入りは厳しく制限され、接触も飲食も禁止され、木々は赤茶けて枯死し、放射能降り注ぐこの土地が、この世界で一番安全で、一番住みやすいところだと。
「だから、あたしはここを守って、ここで生きて、ここで死ぬ」
少女の声は静かに、迷いなく俺を射た。
「そうか」
不思議と荒れていた俺の心も静かに凪いでいた。いや、少女のその声が、荒くれた俺の心の舵を決めた。
地球はもうだめだと、そういう声も確かにある。地球を見捨て、月へ、宇宙へ逃げている人間も、もちろんいる。それを批判する声もある。ただ、俺はそういう道もあって良いと思う。
どこで生きるのかは、自分で決めれば良い。どこで死ぬのかも、自分で選べば良い。
生きたいと足掻くのも、死ぬとわかっていて動かないのも、自由だ。
人は皆自由だ。自由なのだ。俺も、この少女も。自分の意思で、何だって出来る。
「きみに会えて、よかったよ」
俺は少女のちいさ
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