勇者と少女
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がこう言うからには、本当に見ていないに違いない。
「その人の名前は何というの?」
無邪気に、親切に少女は聞いてきた。俺は、胸につかえた錘を押し下げるようにして、声を発さなければならなかった。
「…ディヤーヴォル」
それを聞いた途端、女の子はひっと息を飲んだ。
「それは、名前?」
「いいや。渾名だよ。本当の名前は、知らない」
女の子の震える声に、俺は安心させるように笑った。
「お兄さんは、警察か、司祭様なの…?」
どちらでもないよ、と俺は首を振った。
「その人は、悪い人なの…?」
その問いに、俺は無言で女の子を見た。
悪い人。
人格のことはわからない。しかし、あいつは、俺にとって絶対的な「悪い人」でなければならない。どうしても。
『魔王』。そう呼ばれるものがいる。
この地球を滅ぼさんとする悪い奴だ。
俺は、その魔王を、殺さなければならない。
ずっと、追いかけてきた。いろんなところに行った。いろんなものを見て、いろんな事を知った。けれど俺はただ奴を追った。ひたすら追いかけ続けた。追って、追って、追って。
ふと立ち止まった。
小さい頃、俺は、勇者になりたかった。絶対悪を倒す正義の味方でありたかった。
しかし今、俺は走る意味がわからなくなっている。やるべきことはわかる。やらなければならないこともわかる。しかし、その理由が…強固たる意志が、辿るべき足下の道が、俺には今見えない。
荒廃した大地、荒んだ人の心、争う命、人は奪い合い、誰かを呪いながら生きている…。
もう、手遅れではないのか。この地球は、元に戻るのか。自然も、人の心も。
地球や他の動物にしたら、人間こそが悪だろう。
ならば俺のしようとしていることは間違いではないのか。汚れた地球、汚れた人間を滅ぼそうとする「魔王」は、人間以外にしたら「救世主」に違いない。
人間ですら暗く澱んだ世界を見て一度は思うはずだ。昔のような綺麗な地球が見たい。心の底から明るく笑いたい。この世界は、もう、取り返しがつかないところまで来てしまったのかもしれない、と…。
正義は一体、どこにあるのだ。
「…ここの、自然は元に戻ると思う?」
俺は女の子の質問には答えずに言った。
「戻るよ」
女の子は、躊躇なく言った。
「もうね、百年もしたら、ここは地
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