第二部 1978年
ソ連の長い手
崩れ落ちる赤色宮殿
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北京駐在日本大使は、北京から東へ約300キロメートル離れた河北省の避暑地・北戴河を訪れていた。
そこにある別荘の一室に、通訳や参事官たちと共に通される。
部屋の中では灰色のズボンに白い開襟シャツを着て、椅子に背を預ける小柄な男が寛いでいた。
彼等は、寛ぐ男に深々と一礼をする。
大使は顔を上げると、男の方を向いて、こう告げた
「大人、お休みのところ申し訳ありませんが喫緊の課題で参上しました」
男は、今にも夕立が来そうな暗い表情で言った。
「率直に申しましょう。我々は今の所、北方に割ける兵力は御座いません。
何より我が国に反動的な立場を取る河内傀儡政権への懲罰に出向くしかありませんので……」
話の内容は、北ベトナムへの軍事侵攻を匂わせる物であった。
大使は肘掛椅子に腰かけると、脇に立つ護衛に手紙を渡した。
ここにいる人間は、恐らく護衛と言えども中共調査部か、中共中央統一戦線工作部の物であろう。
皆、筋骨たくましく恰幅が良く人間ばかりだ。
長らく続いた文革とBETA戦争で人民は飢えて食うや食わずの生活をしている。
共産主義とは言っても、所詮田舎の人間は奴隷なのだ……
遠い商代の古より変わらぬ、支那の現実。
気を取り直して、手紙の事に関して言及した。
「先ずはこれをご照覧を」
手紙を見るなり、男の表情は凍り付く……
其処には驚くべきことが記されていた。
BETAが一種の電気信号で動く生体ロボットと類推される……。
「これは日本政府の見解ですか、俄かに信じられません……」
男は、ぼうっと目の前が暗くなって、目の前にあるすべての事象が自分から離れていくのを感じ取った。
しかもどこか知れぬ、深淵に引きずり込まれるかのような感覚に陥っていく……。
この話が事実ならば、この5年に及ぶ地獄の歳月は何であったのであろうか……
得るべき成果は無く、多くの尊い人命が失われたのは無駄であったのか。
あの化け物共が、ただの機械の類と言う話を受け入れることが出来なかった。
「そんな馬鹿な……、絶対にありえようはずがないではないか」
20年前、火星で生命体が発見された事を喜んだことも、10年前の月面でのBETAとの初接触の衝撃も何の価値も無かったのか……
だが、そう言って打ち消せば打ち消すほど、彼の想像ははっきりと、理屈ではなく事実として脳裏に映し出される。
大使はテーブルの上に有る熱い茶を両手で持つと、蓋碗で扇ぐ様にして冷ます。
血の気を喪って、死人の様に唖然とする男の姿を見ながら、一口含む。
「私も正直驚きましたよ……。陸軍参謀本部ではその様に分析して居ります」
「やはり、あのゼオライマーを作った木原博士が関わっているのですか……」
「面白い
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