第73話 派閥と家族
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十色。涙ぐんでいる人もいれば、満足げにしている人もいる。背景も人それぞれだろう。
だが長い祝辞が終わり、午餐会会場へ移動してからは雰囲気が変わる。いわゆるシャバとのお別れの場だ。別に今生の別れというわけではないのだが、五日間とはいえ士官学校の生活に慣れていない候補生たちが、いっぱいいっぱいの表情で父兄に相対している。ヤンのように天涯孤独な候補生もいるが、ボロディン家は一家総勢五人で席を占領しているのもなかなか異様な光景だ。
そして果たしてアントニナはというと、俺がエル=ファシルに出動する前に腰まで伸ばしていた見事なストレートの金髪を、耳脇で奇麗に切り揃えていた。顔も身のこなしも子供から大人へ。正義感溢れるヤンチャな少女は、鋭気溢れる女性士官候補生となっていた。
「見違えたものだが……」
グレゴリー叔父の小さな呟きを俺は聞き逃さなかったが、俺も同感だった。たった五日間だ。俺の場合は約半年ぶりではあるが、羽化したと言っていいほどの変化を見せてくれる。
「アントニナ、士官学校の生活はどう?」
「大丈夫です、お母さん。専攻の同期とは仲がいいですし、先輩達もみんないい人達ばかりです」
元司法士官であるレーナ叔母さんが心配そうに尋ねるが、アントニナは冷静に言葉を選んでそれに応える。だが明らかに無理をしているようにも見えた。それが分かるのか、レーナ叔母さんの顔は暗い。それを理解しているのか、あるいはそうしろと誰かに言われたのか、アントニナは落ち着いた口調で話し続ける。
「情報分析科での席次は一三番でした。それほど悪い成績ではないと思いますが、上には上がいます」
「フレデリカ姉さんとは一緒の専攻なんですよね?」
「ええ、寮での部屋は違うけれど、よく話すわ。旧知の彼女がいると、何かと心強いわね」
姉の口調と雰囲気の変化に、イロナは明らかに戸惑っている。不味くもなければ美味くもない料理に手が伸びていない。
軍隊が軍隊たるには、まず個性の除去から始める……軍への進路についていろいろと柄にもない説教や話をアントニナにはしてきたつもりだが、猫を被るどころか黄金仮面になれとまでは言ったつもりはない。あるいは、校長が変わり校風が一新されてしまったのかもしれないが……
「アントニナ」
「ヴィクトール兄さん。なにか?」
「周囲はお前の父親がグレゴリー=ボロディン少将だと知っているか?」
少し大きめの声で言うと、両隣の家族の目がぎょっとしてボロディン一家に向けられる。特に右サイド側にいる家族で、中佐の軍服を着ている中年の父親らしき男の表情は、驚きと恐怖と困惑満たされている。
だが俺を見るアントニナの表情もまた変わる。こんなところで父親の威光を振りかざすようなことを言うなんて迷惑だ、と言わんばかりに。
「たぶん。明日からみん
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