第五章 トリスタニアの休日
第五話 赦し
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。それに気付いたアンリエッタが、士郎の手を引く。
「シロウさん、わたくしの肩に手を回してください」
「なに?」
「早く」
「お、おい」
戸惑う士郎の腕を引くと、自身の肩に導く。
「恋人のように、わたくしにくっついてください」
「恋人って? ちょっとま――」
「行きます」
有無を言わせず、アンリエッタは士郎を引っ張るように物陰から出る。
歩きながらアンリエッタはボタンを外すと、露わになった胸元に、士郎の残ったもう一つの手を引き込む。
柔らかく暖かい滑らかな肌は、汗でかすかに湿っており、指先が濡れる感触がする。戸惑う士郎の耳元に、顔を近づけるアンリエッタ。
「もっと近づいてください。わたくしを隠すように」
「む……わかった」
衛兵の横を通り抜ける。衛兵がチラリとこちらに顔を向けた気配がした。士郎はアンリエッタに覆いかぶさるように身体を寄せているため、衛兵からアンリエッタの顔は見えない。精々身体ぐらいしか見えていないだろう。
衛兵達はイチャイチャとくっついている士郎達に舌打ちを一つすると、士郎達の横を足早に過ぎていった。
「無事やり過ごせましたわね」
「あ、ああ」
硬い声で返事を返す士郎に、訝しげな顔を向ける。
「その、手はいつ離せば」
「っ?! っ……こ、このまま……しばらくはこのままで、まだまだ衛兵はいますから」
「そうは言ってもな姫さ……あ〜」
「『アン』と呼んでください」
「『アン』か?」
士郎の言葉に頷くと、頬を淡く染めながらアンリエッタが士郎を見る。
「わたくしはシロウと呼びますから」
「わかったアン。それでどうする。もうすぐ日が落ちるが、何処かで宿を取るか?」
「……」
「アン?」
「…………」
ポーと見上げてくるアンリエッタに顔を近づけると、ボッという音が聞こえる程に一気に赤くなった顔を下に向けると、微かに顎を引くように頷いた。
「……はい……シロウ」
小さく蚊の鳴くような声を上げたアンリエッタは、士郎に擦り寄っていった。
士郎たちが宿を取ったのはところは、粗末な見るからな安宿だった。宿の店主に案内された部屋は、士郎でさえどこから手を付ければいいか迷うほどの汚さだった。汚いというよりも、破壊されているといってもいいだろう。
しかし、何処から手を付ければいいかわからなくとも、こんなところで女性を休ませるのは流石にと思い、アンリエッタをドアの前で待たせ、士郎は片付けを始めた。
「もういいぞ」
十分後、士郎はドアを開け、アンリエッタを迎え入れた。
元は白だったと思われるシーツや、足が一本欠けて三本になった椅子。それを部屋の隅に集め、投影したシーツを被せ隠すと、こ
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