第五章 トリスタニアの休日
第五話 赦し
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「ふむ……まぁ、いいか」
小さく笑うと、雨足が強くなり、雨漏りが心配な天井を見上げる。
そんな士郎を、薄く開けた目で見つめる者がいた。
(赦す……そんなことを言われても……わたくしは……でも……)
アンリエッタは滲む視界で士郎の背中を見つめていた。
滲む視界に、いくつもの像が結ばれては消えていく。
煌びやかな衣装に身を包んだ若い男が、にこやかに手を差し出す。
自信に溢れた壮年の男が、恭しく頭を下げる。
彼らは示し合わせたかのように同じ様なことを言う。
ゲルマニアの皇帝との婚約が破談となり、さらに女王となった自分の夫になるために擦り寄ってくる男たち……。
だけど……そんな男たちと彼は……シロウさんは違う……。
権力や地位に興味がないという男は、今までに何人もいた。しかし、そんな男たちの目は、言うことに反して欲望に濁っていた。
地位や権力に興味がないという彼は……真っ直ぐにわたくしを見つめる彼の目は、本当にわたくしだけを見てくれていた。
思い出すのは、今はもういない人。
初めて恋をした人……愛した人。
ウェールズさま……わたくしは……。
様々な想いが胸を、頭を巡り、本当に眠りに落ちていくのを感じながら、アンリエッタは士郎の服の裾を握る手に力を込める。
雨音は激しくなる一方だが……。
士郎の後ろで眠りアンリエッタの顔には……。
「何かいい夢でも見てるのか?」
幸せそうな笑みが浮かんでいた。
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