第五章 トリスタニアの休日
第五話 赦し
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がない。
……自分を殺そうとしたこともある。
……そんな俺が今も生きていけるのは……。
「あれから……雨音を聞くと、いつも思い出してしまいます。わたくしは、赦せそうもありません……ウェールズさまを利用した者を……わたくし自身を……」
胸に熱い湿った感触が広がっていくのを感じながら、強くアンリエッタを抱きしめる士郎の耳に、雨音に交じり……微かな嗚咽が聞こえる。
俺が今、ここにいられるのは、それは……
「赦す」
「え」
戸惑いながら顔を上げるアンリエッタの頬を伝うものを手で拭うと、その滑らかな頬に手を添え見つめ、
「俺は赦す。アンの全てを」
「それ、は、どういう……」
士郎が何を言っているのか分からないといった顔を向けるアンリエッタを、士郎は急に抱きしめた。
そして、囁く。
「誰もがアンを責めたとしても」
ゆっくりと
「アンが自分自身を赦せなくても」
優しく
「俺はアンを赦す」
包み込むように囁く。
「……っ!」
士郎の胸の中、目を見開き呆然としていたアンリエッタだが、何かのスイッチが入ったかのように唐突に暴れだした。
「ダメです……っ。それはダメなのですっ! わた、わたくしは赦されないのですっ。赦されるわけがないのですっ! 赦されるわけが……赦せないのです……」
「……アン」
士郎から離れようと、アンリエッタはドアを叩くように両手で士郎の胸を叩く。胸に振動を感じながらも、士郎はアンリエッタを離さない。
「……ダメなんです」
激しく士郎の胸を叩いていた手は、次第に弱くなっていき……最後は力なく垂れ、代わりにぽすんと士郎の胸に頭を当てた。
「そうか……だが、これだけは覚えていてくれ」
胸にあるアンリエッタの頭を撫でながら、
「例え全ての人がお前を赦さなくとも……俺はアンを赦すと」
「……」
士郎は伝える、
「それだけは、忘れないでくれ」
「……」
少しでもいい、アンリエッタの支えになればと。
「……アンリエッタ?」
「…………」
アンリエッタが何も反応を返さないことを不思議に思い、士郎が身体を少し離してみると、
「すぅ〜すぅ〜」
「寝てる」
アンリエッタは士郎の胸に寄りかかるように眠っていた。
士郎は苦笑を浮かべながらも、アンリエッタを起こさないよう、ゆっくりとベッドに寝かせると、腰をあげようとしたが、
「ん?」
何時の間にか服の裾をアンリエッタが掴んでいたことから、士郎はベッドから離れることは出来なかった。何度か服の裾とそれを掴むアンリエッタの手に交互に視線を向けていたが、小さく溜め息をつくと再度ベッドに腰を落とした。
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