第五章 トリスタニアの休日
第五話 赦し
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トリステイン王宮の執務室で、アンリエッタは高等法院のリッシュモンと会談を行っていた。
広い執務室の中には、アンリエッタとリッシュモンの二人しかいない。二十人は優に座れる巨大な机を挟み、アンリエッタと向かい合って座るリッシュモンは、眉間に皺を寄せた険しい顔でアンリエッタを見下ろしている。
「陛下は必要だともうされますが、これ以上税を上げますと、平民どもが苦しむこととなりますぞ。下手をすれば、平民が反乱を起こしかねません」
「わかっております。ですが必要なことなのです。アルビオンを打ち破らなければ、トリステインは先に進むことはできません」
「それでは、陛下は遠征に必要な費用を得るために、平民が苦しんでもいいと?」
「……遠征への費用は確かに莫大ですが、調達は不可能ではありません。トリステインに住む者全てが団結し、倹約に努めれば可能です。わたくしも上に立つものとして、手の届く範囲では、既に行っております。文句を言う前に、あなたも倹約に努めればいかがですか?」
リッシュモンの問いに答えることなく、アンリエッタは豪奢な服を着るリッシュモンに皮肉げな笑みを向けた。
「さて、さて、これは困りましたな。確かに仰るとおりですが、しかし陛下。例え戦費をまかなえる目処がたったとしても、我々高等法院の大半は、遠征については反対をしていると言うことを覚えて置かれてください」
顎を撫でながら笑うリッシュモンに、アンリエッタも笑みを返す。
「わかりました、覚えておきます」
「それでは、私はそろそろ下がらせてもらいますが……一つ陛下にお聞きしたいことが」
「何か?」
頭を下げたリッシュモンが、顔を上げることなく声を上げた。
「何故、アルビオンに攻め入るのですか?」
「……このままレコン・キスタを放置すれば、必ずこの国をまた攻めてくるでしょう。ならば、不意をうたれる前に、こちらから動かなければいけません」
「……わかりました、それでは、失礼いたします」
アンリエッタの返答に、小さく頷いたリッシュモンは、執務室を出て行った。
リッシュモンがいなくなり、執務室に一人残ったアンリエッタは、椅子に深く座り込みながら、頭痛を堪えるように、片手で顔を塞いでいる。
「……わたくしは一体、何をやっているのでしょうか」
違う、違うのだ……
何が……放置すればまたせめて来るからだ?
何が、不意をうたれる前に攻めなければだ?
はっ……あはは……何てひどい女でしょうわたくしは……。
ただの復讐でしょう、アンリエッタ。
ウェールズ様を殺したレコン・キスタが憎くて憎くてしょうがないんでしょ?
だから、国を巻き込んでも復讐を成し遂げたいのでしょ?
わかっている。
わかってはいるのだ。
だ
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