生きていていい
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起き上がったアンチは即座に友奈へ敵意を向けてきた。
赤く光る眼差しとともに繰り出される格闘。
だが、これまで格闘で鍛えてきた友奈の動体視力はアンチの動きを完全に見切る。卓越した動きですべてよける。
「せいやっ!」
生身のまま。
友奈の正拳突きは、アンチの巨体、その数少ない急所である腹を貫いた。
関節部分を的確に撃ち抜いた友奈の攻撃に、アンチは大きく後ずさりをした。
「なぜだ……!?」
引き続き攻撃を再開するアンチ。
だが、どのような手段をもってしても、結果は変わらない。全て友奈の技術によって防がれ、逆にアンチがダメージを負ってしまう。
「なぜ人間のお前の攻撃が俺に通じて、俺の攻撃が通じないんだ!?」
焦燥感に駆られていくアンチは、目に見えて動きが読みやすくなっていく。
やがて友奈はしゃがみ、その頭上をアンチの腕がかすめる。
そして。
「牛鬼!」
限界が近い牛鬼。その残り少ない能力を発動させた。
すでに友奈の全身を勇者服に変身させる余力はない。だからこそ、その右腕のみを変身させた。
「勇者……」
桃色の光が溢れ出す。
桜吹雪の中で、勇者は拳を握った。
「アッパーっ!」
そして突き上げる拳。
右腕だけが変身させたアッパーが、アンチの下あごに炸裂する。
大きな威力を示したそれは、アンチの巨体を殴り飛ばし、そのまま地面に大の字で伸ばした。
「なっ……!」
右腕を除いて、生身のままの友奈。
彼女の、たった一度の反撃で、怪獣であるアンチはその体が砕かれていく。彼はその事実を受け止められないように、唖然としている。
「なぜだ……なぜなんだ……!」
片目だけで、空を仰いで呟くアンチ。
「俺は……新条アカネの命令に従えないのか……結局俺は……トレギアと、ムーンキャンサーを止めることなんて」
___もしかして、俺って、生きてたらいけなかったの?
父さんの言ったとおり、生きていたらいけなかったの___
その言葉は、心のどこかで、友奈に突き刺さったままだった。
あの大雨の日。生きる事を許されなかった少年の姿が、アンチの姿にフラッシュバックする。
だから、あの時彼には言えなかった言葉を、友奈はアンチに向けた。
「大丈夫。いいんだよ。だってアンチ君は、生きているんだから」
「生きている……?」
「そう。それに、アンチ君はあんなこと言われてたけど、それでもお姉ちゃん……アカネちゃんのことが心配なんでしょ?」
「……ああ」
頷いたアンチ。
彼はようやく、友奈の手を握り返した。
友奈はにっこりとしながらアンチを助け起こす。友奈は数回アンチの体に付いた土埃を払い、尋ねる。
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