第72話 ある小作戦の終了
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、大人の軍人一個小隊で囲むなど、配慮が欠けているとしか言いようがない。
それでも彼女は臆することなく、フィンク中佐に言い返した。恐らく俺の受け売りだったにしても、反撃された中佐達は自分達が彼女相手に何をしているのか理解したのだろう。自分達を追い詰めている空気に、自分達自身がいつの間にか酔っていたということに。
「中佐。今更言うまでもありませんが、彼女は彼女自身で人生を決めました。エル=ファシルの優しい叔父さん達がやるべきなのは、どうこうしろと指導するのではなく、彼女が困った時にそっと支えてあげることじゃないですか?」
「おっしゃる通りです」
「それと第四四高速機動集団司令部は、第八七〇九哨戒隊が作戦戦局に寄与したこと極めて大と考えており、部隊感状を司令部では出すつもりです」
偵察・哨戒・工作・戦闘と、エル=ファシルの地理感のある彼らを司令部は散々扱き使い、彼らは過不足なくそして損害なくこれに応えた。部隊感状を出したいと言った俺に、司令部全員が賛成してくれた。
それで彼らの『罪なき罪』が世間から許されることはないだろう。ヤン=ウェンリーが脚光を浴びるたびに、エル=ファシルは蒸し返され、彼らを傷つける。この作戦終了後に哨戒隊を解散させ、各艦別々の場所に配置すれば、耳目を集めることもなく風化していく……そう考えないでもなかったが、そうなれば各艦があるいは各員がそれぞれの場所で孤立し、潰されるだろう。
故に『脛に瑕を持つが、腕は確かな一部隊』として戦ってもらった方が、彼らの軍隊における今後の精神衛生上いいと判断した。ビュコックの爺さんもそれが良かろうと、自分が彼らの上級指揮官である内はそう扱うと約束までしてくれた。
「ですから胸を張ってください。世間がなんと言おうとも第四四高速機動集団司令部とビュコック司令は、第八七〇九哨戒隊を『命の楯』としてではなく『偵察哨戒の精鋭』として頼りにしています」
俺に対する個人的な忠誠心は不要と、言外に言ったつもりだが理解してくれただろうか。膝をついて泣き崩れるユタン少佐も、顔を上げて涙を堪えているフィンク中佐も。
そんなむさくるしい二〇人の男達に、俺は一度敬礼するとブライトウェル嬢のようにキッチリとした回れ右をして、リニアの搭乗口へと向かった。ちょうど都合よく出発するリニアに体を滑り込ませると、空席が目立つ車内で、俺はコンパートメントの一つを占領して目を瞑った。
とにかく今回、彼らを無駄に死なせず良かったと、思いつつ。
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