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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第72話 ある小作戦の終了
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動した際に空いた穴は、後衛の部隊から戦力抽出された臨時編成の部隊がカバーするはずだったが、この出足が遅れた。そこを帝国軍は見逃さずに圧迫する。

 シトレは即座に事態を悟り基幹部隊の逆側を前進させて、圧迫を撥ね返そうとする。しかし戦力的に差がある以上、戦線における被害の拡大と損耗に対する回復力は段違いだ。しかもこれが発端として混戦から近接戦に移った場合、撤退における被害の増大は免れない。

 敵との離隔をとる必要がある。その為には強力な一撃が必要……シトレの指示を待つまでもなく、アントン率いる右翼第二部隊は陣形をさらに伸ばし、長距離砲による前線へ横からの砲撃圧迫を加えた。それによってできた隙に第二八高速機動集団基幹部隊は一時後退し、陣形を再編する時間を得た。だが伸びきった右翼第二部隊は後退させるタイミングを逸してしまった。

 結果として右翼第二部隊に帝国軍は火力を集中させ、分断し、各個撃破に移る。その渦中で戦艦ブールカが撃沈した。戦闘詳報にアクセスできる身分になってからは何度も見た情報だった。

「ジュニアが儂の用兵に、少し不満があるのはわかる」

 爺様の用兵の基本が機動力ではなく火力を優先するようになるのは、練度を補う点もさることながら、自分に求められている任務と、戦局全体にもたらす影響と、部隊の練度と、損害の効率を比較した結果に過ぎない。査閲部時にフィッシャー中佐に出会って機動戦術教の狂信者となっている俺としては、もっとやりようがあると思いつつも、麾下戦力がそれについていくだけの反応力がないことも分かっているつもりだった。それを顔にも言葉にも出したつもりはないが、爺様は理解していた。

「儂ももう少し兵を動かせればとは思う。だがな、ジュニア。焦るな。指揮官たる者は焦ってはいかん」
「……小官は焦っていますでしょうか?」
「貴官が何に焦っているかは、儂には正直わからん」
 太い首を左右に振りつつ、爺様は目をつぶったまま続けた。
「ただジュニアもアントン同様に少し先が見えて、そして先が見えるゆえに、時として状況に煽られているように見える」

 たぶん父アントンと俺とでは、見えている先というのがおそらく違うとは思う。再来年に金髪と赤毛が幼年学校を卒業し前線に出てきて、七年後には無謀な遠征を試みて、一〇年後には国家そのものが消滅しているなんて、例え爺様相手でも話すわけにはいかない。だが正直帝国領侵攻前には、同盟の戦略に関与できるだけの地位が欲しいという願いに変わりはない。

 それが巡り巡って俺の行動に焦りを生じさせているのか。表情筋を動かすことなく爺様の顔を見つつも、頭の中を考えが堂々巡りしている。

「儂の長いだけで大して実績のあるわけでもない経験から言わせてもらえればだ。少なくとも今ジュニアは焦る必要はない。
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