第二部 1978年
狙われた天才科学者
一笑千金 その4
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貴方もまた、よく部下のお世話をし、部隊の為に働き、衛士としても将校としても、恥かしくないお人として、様々な信頼をうけておられます……。
どうして今、私があなたを、見捨てる事ができまして」
「ど、どういうことです。仰っしゃる意味が分かりかねますが……」
「妹さんを木原という日本人に引き渡すなんって、本当は望んでいないのではありませんか」
「ええ。じゃあ、すっかりバレてたのか」
「私は、ハイム将軍から、今回の件を事細かに伺っております。
もし断れば、状況次第によっては、この国の存立にも影響しかねないかと……」
マライは、突然、彼の手をかたく握って、
「ですから、貴方が、どうしてそんな大胆な行動を敢えてなさったのか。
私にも、その心の中の気持ちが、全くわからない訳ではありません」
「す、すみません」
マライの本心からの言葉に何処か、ジンと来るものがあり、ユルゲンもまたそっと眦を指で拭いていた。
「なにを仰っしゃるんですの。貴方や妹さんを、あんな人物の為に生贄にしていいほどなら、ここへは来ません。
私は軍人としてでなく、一人の女として、日ごろの好みを捨てがたく、飛んでまいったのです」
「で、では、このユルゲン・ベルンハルトをそれほどまでに」
「貴方のご温情には一方ならぬお世話になり、深い交わりをしてきた仲です。
なんでその間柄の貴方を捨てられましょうか」
いつの間にか、ユルゲンはマライの事を強く抱きすくめていた。
マライとユルゲンが、寝所から出てくるや、声を掛ける者があった。
ユルゲンの副官、ヤウクで、急ぎ彼の元に駆けより、
「僕も君に相談がある」と、マライに聞くより早く、連れて行ってしまった。
一人残され、呆然とするマライに、
「よろしくて」と、呼びかける声がした。
声の主は、ユルゲンの新妻、ベアトリクス。
朝より気分のすぐれぬ彼女は、外出先から、急ぎ帰宅し、早めに休もうとしたところ、偶然、ユルゲンたちが寝所への出入りする様を、目にしたのだ。
マライは、一部始終を知られた事を悟り、色を失い、恐れおののく。
そんなマライの前に立ち、ベアトリクスは、両腕を豊満な胸の前で組む。
青白い顔色に、乾いた笑みを浮かべ、
「お話し聞かせて下さらないかしら」と、話しかけ、マライの右手を引いて、別室へいざなった。
そんな事も知らないユルゲンはヤウクに連れられて、屋外にある警備陣の為の喫煙所に着くなり、
「急に改まってなんだよ」と訊ねた。
常日頃から秘書の様に付き添うヤウクは、深刻な面持ちで、
「君は、簡単に木原マサキという男が操れると、思ってるのかい」と同輩を窘めた。
「アイリスを見る目は、嘘じゃないだろ」と応じるも、
「もし、我々の姦計(かんけい
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