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冥王来訪
第二部 1978年
狙われた天才科学者
一笑千金 その4
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にマサキは、興奮した様子のユルゲンに、
「ベルンハルトよ。お前の妹の可憐さは、言葉に出来ぬものだ。
真の美人というものを、初めて見た気がする」と、熱っぽく語り、
「世間の冷たい風から隠してまで、大層かわいがるのは、解らぬでもない」
と、ユルゲンの妹への感情に、理解を示した。

 ユルゲンはマサキの言葉を受けて、まるで心の中まで覗かれた気がした。
思えば、ひとえにアイリスディーナの幸せを願っての為、戦術機という甲冑を纏い、怒涛の如く押し寄せて来るBETA共に膺懲(ようちょう)の剣を振るった。
 またアイリスや愛しい人ベアトリクスの為には、全世界を巻き込み、東ドイツの社会主義体制の崩壊さえもいとわない覚悟であったし、また、その様に行動さえもした。
例えこの身が滅びても、シュタージや軍を巻き込んで、妹や妻が生き残って欲しいと、思って、日々苦しみ(もだ)えた。
ハイム将軍の提案も、聞いた時は嚇怒したものの、今となっては彼女の幸せのためなら、そう言うのも悪くないように思えてきていた。
 マサキは、抑えようもなく心の底にむらむらと起ってくる不思議な感情を恥じながら、打ち払おうと努めていたが、その理性と反対なことを口に出していた。
「だが、今のこの俺に、あの娘を人並の幸せを掴ませてやることは難しかろう」
押し黙るユルゲンにたたみかける様に、マサキは、何時になくねばりっこく言った。
「世に美人は一人とは限らぬ。
それに俺の様な匹夫(ひっぷ)に嫁いで、その宝石にも等しい純潔や貞節を汚すような真似をする必要もあるまい。
ただ、どうしても俺が忘れられぬというのなら、5年待って。返事が無ければ、縁が無いと思って諦めろ」
その発言を受けて、ユルゲンの脇に立つアイリスディーナは、俯いて縮こまってしまう。
そんな素振りが、マサキをいっそう(しび)れさせた。





 一通り、話が終わった後、落ち着いたユルゲンは茶の準備のために台所に向かった。
その背後より、駆けてきたマライから、
「ユルゲン君、お待ちになって」と、息も忙しげに、声を掛けられる。
咄嗟に、マライは、ユルゲンにふるいついた。
「ど、どうかしました」
「ユルゲン君、どこか人気のない部屋でちょっと話したいの」
そう言って、手近のドアを開けて、空き部屋に滑り込む。
ユルゲンにとって運が良かったのか悪かったのか。そこは夫婦の寝室だった。
「ここなら誰も来ません。それで、話とは」
「同志ベルンハルト」
 マライはじっと(ひとみ)を澄まして、彼を見つめた。思いなしか、その眼底には涙があった。
ユルゲンも、胸をつかれて、思わず、
「はいっ」と、改まった。
「貴方は、大変な事をしてくれましたね」
「えっ?」
「私は、貴方を、常々、弟のように思っていました。
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