第二章「クルセイド編」
第十九話「少年の強さ」
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フェイトの体力は刻一刻と削られる。
だがそれでもリオンは術を止めない。
理性が無駄だと叫ぶ。命を捨てることの愚かさと言う知恵が撤退を叫ぶ。全てリオン・マグナスが積み上げてきたものだ。その叫びどおりもはやリオンの術でフェイトを死の淵から呼び戻すことは不可能だ。十分稼ぐとエレギオは言ったが十分どころではなく二分もすれば確実にフェイトは死んでしまう。『ヒール』しか回復の晶術が使えないリオンにこれ以上何ができるというのか。
だがそれでもリオンは術を止めない。
最早これ以上は苦しませるだけでしかない。神はそれ程に優しくない。激情に身を任せて主人公が叫べば奇跡が起こって悲劇の少女を救う事ができるのは虚構の中だけだ。現実には奇跡は存在しない。寧ろリオンがフェイトの事を本当に考えるならいっそこの場で苦しみを取り除いてやるのが一番良いのかも知れない。フェイトは強いリオンを尊敬していた。そんな彼の手によって命を絶たれるのなら彼女もまた本望だろう。
だがそれでもリオンは術を止めない。止められる筈がなかった。それは例え捨ててしまったとしても仲間を否定することだったから。あの男の意志を汚すことだったから。リオン・マグナスはそれを許す事などできない。
だが――――――
(くそっ、くそっ、くそおおおおおおおおお!!!!!)
血は止まらない。体温は消えていく。骨は戻らない。呼吸は安定しない。火傷は皮膚を蝕み続ける。
リオン・マグナス。その名前に篭められた意味は『偉大なる者』。
だが例えどの様に尊い人間であったとしても、どれ程偉大な存在であったとしても。人間には死が確定した未来を変えることなどできない。それは神の所業だ。或いは悪魔か。そしてリオンは人間だった。天才剣士などと呼ばれてようと人間は人間だった。それは残酷なほどに変えられない事実だった。
そして人間故に、足掻く。越えられぬ壁を越えようとする。リオンは足掻いた。ただひたすらに足掻いた。
(何か! 何か手はないのか!?)
晶術では足りない。そしていよいよフェイトの命は消えようとしていた。それがさらにリオンを焦らせる。
「坊ちゃん……!」
そういったシャルティエの声さえ絶望に包まれている気がした。
既に決死の『ヒール』の開始から一分。二分が経過するまであと僅か。
(くそっ! 何故だ! どうしてだ! 一体何がコイツをここまで傷つけた!)
それは目の前で傷つき倒れている少女と、今必死になって火を抑えている人種と同じだ。
魔道士と言う。魔法を使うもの。晶術とは異なる力。
魔法。
その単語がリオンの体内を雷鳴の如く駆け抜けた。
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