第121話『雨は上がって』
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けの話だよ」
「そんなことが……」
彼があまりにも淡々と話すためリアクションを取るタイミングを失ってしまったが、彼の過去はとても暗い闇に包まれていた。そして晴登の父、琉空がそこに差し伸べた光ということか。
15年前ならばまだ晴登が産まれる前の話。父がそんな活動をしていたなんて全く知らなかった。
「こんな話をした理由だけどよ、つまり訊きたいことってのは、師匠との連絡手段が欲しいってこった。あの時なぜ俺を置いていったのか、真相が知りたい」
「連絡手段……電話番号でいいですか?」
「はっ、願ったり叶ったりだ」
残念ながら晴登はスマホを持っていないため、教えられる連絡手段はそれしかなかった。それでも、真実に辿り着きたい影丸にとっては十分な収穫だったと言えよう。
そうして電話番号を教えた後、影丸はポツリと呟いた。
「お前は、師匠によく似ている」
「え? 俺はどちらかと言えば母さんよりですけど……」
「そうじゃない。魔術師としてだ。あの人に重なる所がいくつもある」
「そうなんですか……」
過去を懐かしむようにそう言った影丸の表情を見て、晴登は父への興味が一層増していく。
今までは、家族に優しくて、でもちょっと自分勝手でよく母と出かけてしまう困った父親という認識だったが、その認識を捨て去る時が来た。すぐにでも、魔術師として父と話してみたい。
「あの、もっと父のことを教えてくれませんか?」
「お? そうだな……あ、保護されてすぐの頃に一度だけ、師匠が出場する魔導祭を観戦したことがあったな」
「!!」
もっと父のことを知りたいと思って影丸に訊いてみると、タイムリーな答えが返ってくる。なんと父も魔導祭に参加したことがあったのだ。父が魔術師であるという、裏付けにもなるエピソードである。
「驚いたよ。だって師匠より強い魔術師がゴロゴロいたんだからな。当時の俺は信じられなかったよ。……それでも、師匠は諦めなかった。自分が弱い自覚があったからこそ、誰よりも考え、そして誰よりも行動していたんだ」
影丸の言葉から察するに、どうやら父は凄腕の魔術師というよりは、晴登のように平凡で、だけど努力家の魔術師だったらしい。であれば、なぜそんな父に"風神"という異名が付いたのか。
「その時の結果は予選敗退だったけどよ、俺は感動した。だって師匠の予選順位は確か10位くらい、別のチームだったら本戦出場できるくらいの実力だったからな。まさに"風神"の名に相応しい活躍だよ」
「なるほど……」
影丸は琉空のことをこれでもかと持ち上げているが、やはり"風神"の名が付いた理由のエピソードとしては少し弱い気もする。何か他に理由があるのだろうか。
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