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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第70話 アスベルン星系遭遇戦 その1
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ン准将の第三四九独立機動部隊を予備兵力に指名したわけだが、三時間で敵の正面戦力を粉砕する為には、彼らの力なくしては計算上不可能だ。爺様も俺もそれは分かっている。

「よろしい。三時間じゃな?」
「はい。三時間です」

 俺がそう応えると、爺様は下唇を噛んで、目を閉じる。きっと爺様の頭の中ではビームとミサイルが飛び交い、早送りの戦場風景が映し出されているのだろう。邪魔をすることはない。豊富な実戦経験というソフトウェアは、どんな計算機にも勝るとも劣らないものだ。老将の沈黙は二分ばかりになり、モンシャルマン参謀長の頭部が僅かに爺様方向に傾いたタイミングで、目が開かれた。

「ボロディン少佐。意見具申の際に貴官がいちいち儂に敬礼する義務を免除する。気が付いたことがあれば、直ぐに儂に言え」
「心得ました」
「士官学校首席卒業者に、用兵とはいかなるものか、教育してやろう」

 そういうと、まだしっかりしている爺様の足腰が、勢いよくその体を椅子から持ち上げた。背筋がピシッと伸び、その両目はメインスクリーンに映る恒星アスベルンと、映っているだろうが画素数で移り切れていない敵艦隊に向けられている。

「ファイフェル! 指揮下各部隊旗艦に圧縮通信通達。『急戦速攻、立方横隊、左より三五一、四四三、四四一、四四二、四〇九。二段目中央三四九、目標敵艦隊航路正面。第三戦速』以上送れ」
「ハッ!」

 コイツの直立不動の敬礼はマーロヴィア以来ではないだろうか。『初めてのまともな実戦』を前に、ファイフェルの全身は緊張している。実質俺も同じなんだが、こちらは一度死んだことのある身だ。死に対する免疫が若干ではあるが多い。そしてマイクを通して艦内に発せられたファイフェルの復唱に、司令艦橋と吹き抜けでつながっている戦闘艦橋からざわめきが起きる。

 帝国軍との『本気の殴り合い』が始まる。首だけ後ろに回せば、右舷側ウィングでブライトウェル嬢が何も持たず、ただ顔色を真っ青にして立っている。

 彼女をなんとしてもハイネセンにいる母親の下に返さねばならないなと思いつつ、俺は彼女に何も声をかけることなく、自分に与えられた席へと向かって行くのだった。

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