東條希が大阪弁な理由
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違う。あの写真もキミのお喋りなところも全部好きやった。
「いろんな写真見せてくれて色んなところ一緒にまわったのも?」
「嘘や」
違う。あの日々は今までの辛い生活の中で唯一の楽しみやった。
「ウチが大阪弁真似するって言うた時のあの笑顔も?」
「そうや! 全部嘘や! あの川原でのこともカメラの事もみんな…こうして油断させて近付くための嘘だったんや!!」
違う。あの時は本当に嬉しかった。今まで嫌いだった大阪弁をキミは初めて認めてくれた。自分はキミに救われたんや。
これ以上長引かせても辛いだけだ。希ちゃんも、自分も。
なかなか諦めてくれへん希ちゃんにここで最後のダメ押しを。
「そもそも写真とかくだらへん。話し合わせるために少し調べたりしたけどな、こんなんやるやつ正直気持ち悪いわ!!」
「そん……な……」
ストレートなその言葉に彼女の顔が歪む。
「信じてたのに……!」
そう言い残し、希ちゃんは走り去っていった。
ごめん。希ちゃん。こうするしかなかったんや。
自分から離れていく背中を眺めつつ、頭の中でひたすら謝り続ける。
最後まで言えなかったけど
最初一目見た時から僕は
君の事が好きだったんだよ───
──────────────
なんでこんな事になっちゃったの……?
わからない。もう何もわからない。溢れる涙を拭いながら走る。走る。走る。
家に着くと親から引っ越しの話が伝えられた。急な話やけど明日引っ越す事が決まったらしい。
それ以降、ウチは彼と会うことはなかった。
──────────────
「もうこんなことは忘れよう思って、そのカメラは物置の奥深くに封印したんや」
「でもな……このなまりだけは治せへんでな……」
そこまで言って視界が歪む。
あれ……なんで涙が……
もう秀介くんの事なんか嫌いなのに……
「う……うぁ……ああぁぁぁぁぁ」ポロポロ
これは。
これはウチが唯一恋をした人との、出会いと別れの物語。
それ以上でもそれ以下でもない、ただの昔のお話や。
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