第二十七章 白と黒
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爆音、爆風。
あまりにも巨大な体躯だからであろうか。生身がただ駆けているだけなのに、暴風雨にも感じられるのは。
大きいというだけでなく、あまりにも異形な容姿であった。
長剣の一振りを、かろうじてかわしたアサキとカズミの二人は、それきり口を半開ききして、唖然呆然の体で怪物を見上げている。
唖然呆然にもなるだろう。
目の前の、その異形、大きさを考えれば。
馬というべきか、河馬とでもいうべきか。
ずんぐりむっくりの胴体で、形状的には、蜘蛛、が一番近いであろうか。
ただし、生えている足の数は二本少なく、六本であるが。
蜘蛛といってもその大きさは桁外れで、小型のトラックほどもある。
そして、異形を異形たらしめるのは、その背中から突き出でているものであった。
人間の上半身、腰から上が、ケンタウロスよろしく背から生えているのである。
白銀の服に身を包み、その上には二人のよく知った顔があった。
「至垂……徳柳」
カズミの、震える声。
そう、壁を砕いて現れた巨体は、他でもない、リヒト所長である至垂徳柳の顔を持つ生物だったのである。
アサキは、ごくり唾を飲んだ。
汗ばんだ手を強く握った。
「どうして、あなたがここに。その、姿は……」
記憶おぼろげだけど、わたしと一緒に闇に飲み込まれたはずだ。
わたし自身、なにがどうなったのか分かっていないけど……
ここに、同じところに、きていたのか。
でも、この姿は一体……
「それが、てめえの正体ってわけか。やっぱりこの、妙ちくりんな場所は、てめえらの研究施設の中だったってわけだな」
カズミとアサキの言葉を受けた、至垂の顔を持った化け物は、ゆっくりと身体を回転させる。
絡まりそうなほどに密集している六本の足を起用に動かして、ぞぞり、ぞぞりと、二人の正面へと向き直った。
「知らないようだな。知らないようだな。まあよい。感謝しているぞ、いるぞ、令堂和咲。感謝のお礼だ。感謝のお礼だ。……なにも知らないままぁ死んでおけえええい!」
至垂の顔を持つ六本足の巨蜘蛛は、二本の太い後ろ足で、床を強く蹴った。
どどう、と爆発を感じるのは、その突進力の凄まじさが故であろうか、桁外れの巨体が持つ迫力であろうか。
その圧倒的な質量が、猛然と突っ込んだのである。
アサキとカズミが肩を並べる、そのど真ん中へと。
「あぶねっ!」
カズミは半ば無意識に、紙一重で避けていた。
突然のことに、心身戦闘態勢に入り切れていないようだが、しかし伊達に鍛錬は積んでいない。腐っても魔法使い
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