第一章
[2]次話
ケントの木
フランソワ=マリ=アルエ世間ではヴォルテールと呼ばれる濃い眉と細面の気品のある笑みをたたえた顔を持つダークグレーの見事な鬘を被った彼はこの時ある女性と会っていた。
その人物はイングランドの物理学者アイザック=ニュートンの姪である、その彼女が彼の自宅で話していた。
「本当にたまたまだったんですよ」
「叔父さんがあのことを発見したことはですね」
「万有引力の話を」
「そうだったのですか」
「叔父の家にある林檎の木から」
それからというのだ。
「林檎の実が落ちまして」
「叔父さんがそれをご覧になられて」
「はい、あらゆるものが落ちるとわかって」
そうしてというのだ。
「そこからです」
「あの法則を発見されたのですね」
「そしてその木の林檎の実がです」
ここでだ、ニュートンの姪であるその女性は。
ヴォルテールに一つの林檎の木を実を出した、そうして彼にあらためて話した。
「その林檎の実です」
「そうですか、美味しそうですね」
「では召し上がられますか?」
「喜んで」
ヴォルテールは彼女の言葉に笑顔で頷いてだった。
実際にその林檎を食べてみた、それは甘く酸味も効いたいい味だった。
彼はこの話を後世に伝えた、そうして誰もが知る話になったが。
後に日本にもその木が来た、その話を聞いた若い物理学者である小栗大学で講師を務めている山田幸平背が高く濃い黒くしっかりした眉を持ち頬がこけた面長で細い髪質の髪の毛を真ん中で分けている大きなきりっとした目で痩せた身体が白衣に似合っている彼が言った。
「あのニュートンの木がですか」
「そうだよ、日本学士院にだよ」
「イギリス物理学研究所からですか」
「贈られたんだよ」
山田が勤務している大学の教授である伊藤健次郎は笑顔で話した、細面で鋭い目だが口元は微笑んでいて四角い眼鏡とセットして右で分けている黒髪の一七〇位の背の彼が応えた。
「この度ね」
「それは凄いですね」
「全くだよ、ニュートンの木が来るなんて」
「物理学の者として」
「全く以て喜ばしいよ」
「そうですね」
山田は伊藤に笑顔で応えた、だが。
彼はその話を聞いて暗い顔で言った。
「折角来たのにですか」
「あの木は高接病ウィルスに冒されていてね」
「それで、ですか」
「かなり危ういらしい」
「あの病気は確か」
高接病と聞いてだ、山田は言った。
「林檎の台木が弱って」
「壊死してね」
「木全体が枯れてしまうんだよ」
「そうした病気ですね」
「だからね」
「危ないですか」
「ニュートンのあの木は接ぎ木をしていって広まっているから」
伊東は山田にこのことを話した。
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