第一章
[2]次話
未来記
この時楠木正成は自身の屋敷を尋ねてきた知人から言われた。
「四天王寺に面白い書があるといいます」
「あの寺にですか」
「聖徳太子が書かれた」
「それは確か」
正成はその話を聞いて述べた、中背で引き締まった身体に細面で整った口髭を生やした男だ、目と眉は端正で口元は引き締まっている。
「未来記という」
「ご存知でしたか」
「名は聞いたことがあります」
その書のというのだ。
「平家物語にも出た」
「名前が出ていますな」
「まことにあるのですか」
「はい、どうやら」
知人は自分と向かい合って座っている正成に答えた。
「あるとか」
「それは藤原様の明月記でもありましたな」
「瑪瑙の石箱が見付かり」
歌人として名高い藤原定家の日記である。
「そこに未来記が刻まれていた」
「その様ですな、ですが」
正成は袖の中で腕を組み述べた。
「まさかです」
「まことにあるとはですか」
「思っていませんでした」
「ただあるというですか」
「話があり藤原様もです」
定家もというのだ。
「その目でご覧になられていないのでは」
「そう思われていましたか」
「はい、ですがまことにあるのなら」
それならとだ、正成は確かな声で述べた。
「是非です」
「ご覧になられたいですか」
「はい、四天王寺にですね」
「太子が建立されたあの寺にです」
まさにというのだ。
「あるとか」
「ではあの寺に参り」
「そうしてですな」
「寺の者と話し」
そうしてというのだ。
「なければそれまで、あると言うのなら」
「読ませてもらいますか」
「そうさせて頂きます」
こう知人に話してだった。
正成は四天王寺に参拝した、そしてだった。
馬と太刀それに鎧を奉納し寺に古くからいる老僧に名乗り自分の考えを話した、すると老僧は目を瞠ってだった。
正成にだ、こう問うた。
「実は星見で大きな将星の持ち主がこの寺に来ると出ていましたが」
「そうなのですか」
「それはです」
まさにというのだ。
「貴方様のことでしたか」
「それがしはとても」
「いえ、この寺の星見の者が見たのです」
老僧は彼に確かな声で答えた。
「間違えぬ者なので」
「だからですか」
「貴方こそです」
「その星の方かと。それでなのですね」
「若し宜しければです」
正成は老荘にあらためて述べた。
「未来記をです」
「読まれたいですか」
「はい」
是非にと言うのだった。
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