火車
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もかく、消防や自衛隊は入りまくっていたはずだ。なのに女の亡骸は出なかった。…どうして。
「事実として、あの病院の敷地内からは何も出ていない。おかしなことにねぇ。このセンセイの所業は」
ぽん、とガラスの容器を叩いて奉は低く笑った。
「身内は、知ってたってことだねぇ。それもかなり詳細に。それを知った上で、黙認していたんだろうよ」
女達の亡骸を隠したのは身内ということか。胸の奥がすっと寒くなる感覚に襲われた。
…地盤沈下が起こった瞬間に、彼らは決意したんだろう。『彼』が拵えた亡骸の山を、今こそ処分しなければ、と。そしてこのことを知っていたのは一人や二人ではない。皆が共謀して、『彼』の罪を隠匿する決断をしたんだろう。そうでなければ、地盤沈下発生から消防への通報までの短い時間で隠しおおせるとは思えない。
「ま、そこら辺はあちら側の人間の事情だ。決めたのは彼らだよ。俺は関知しない」
『決めた』の部分に、不吉な含みを込めた声色に感じた。
「問題は、何故センセイは思考のみ生かされた状態で俺達のもとに寄越されたのか、ということだ」
「…そういや、そうだな」
天罰覿面、というだけならシンプルに殺せばいい。実際、奉のもとに死体を放り込まれた理由はとてもシンプルなものだと思う。殺しても死体を残されれば、産土神の領土である薬袋家の檀那寺に葬られる。それすら許せないから、奉の領土に放り込んだのだろう。…多分。だが、わざわざ人知を超えた何らかの方法を用いてまで『思考』のみ生かされた、理由は。
「好意的に考えればな」
「庭先に死体放り込まれて好意的!?」
「まあ聞け。…こいつの医師としての能力は優秀なんだよねぇ。大病院の後継者として将来を嘱望される程度にはな」
携帯が微かに震え、変態センセイLINEに『面映ゆいね♪』というムカつくレスが表示された。
「単なるイチ客人神である俺に面倒事を押し付けたことに、多少の負い目は感じているのかもしれないねぇ。なのでその見返りとして『名医』をくれてやった…てことかねぇ」
―――名医!?
「そ、それはこの脳だけのセンセイに診察をさせるってことか!?」
「脳があればガワの問題は何とかなる。…前科があるからねぇ、自由にはさせないがね」
くっくっく、と低く笑って奉は軽く手を広げた。
「例えば、この洞からは出られない。俺には危害を加えられない。アラハバキってのはねぇ」
塞の神なんだよ。そう云って奉はガラスの容器を撫でまわした。
「結界を司るのが、俺の本来の仕事なんだよねぇ。俺が出るなと云えば出られないんだよ」
塞の神。村の出入り口などの『境界』への侵入を防ぐ神。それが奉の性質か。俺は妙に納得していた。…だから玉群は、客人神のこいつに縋り、宿敵を封印したのか。そしてこの地の産土
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