火車
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居た。
「あはは…私、雨女、だから…」
そう呟いて力なく笑う。くそ真面目に用意したらしき正式な喪服も台無しだ。彼女はこういう事がものすごく多い。前世になにか酷い悪行にでも手を染めたのだろうか。俺に出来る事は、黙ってハンカチを手渡すこと位だった。
「おー大変だったじゃん、俺のハンカチも使ってよ。なになに、静流ちゃんも来てたの?」
……全くだ。彼女とてあの変態医師にはホルマリン漬け候補として目をつけられたり、妊婦の死体に囲まれてのお茶会に付き合わされたりと、散々な目に遭わされているというのに。だから敢えて声を掛けなかったのだ。
「うん。お身内じゃないから火葬場まではいけないけど、霊柩車のお見送りをしなきゃって…」
―――何でだ。
妊婦になったら腹を裂かれてホルマリンに漬けられたかも知れないというのに、何の義理があってお見送りにまで付き合っているのだ君は。そんなことだから最後まで面倒事に巻き込まれまくるんだぞ。
「そしたら突然、大雨と雷で周りが見えなくなって、気が付いたら誰もいないし、霊柩車周りは大騒ぎになってて、お見送りしてる場合じゃなくなるし、誰かとぶつかって眼鏡落として、そのうちに雨は凄いことになるし…眼鏡ないと何も見えないし、運よく眼鏡は拾えたけど…」
拾えた頃にはご覧の通りの濡れ鼠、と。それは…。
「それは…運は良くない。むしろ、悪い」
深い、深いため息が、我知らず漏れた。この子は…この子は本当にもう…。
「ご、ごめんなさい」
「…いや、謝るところじゃない。…今が五月で、本当に良かった」
寒い季節だったら風邪をひくか、悪くすれば猛吹雪の中で眼鏡落として遭難するところだった。そしてここまで見事な濡れ鼠は、店内で静流一人だったらしく、店員さんが気を利かせてフェイスタオルを出してくれた。
「はは大変だったねぇ。でも合流出来てよかった。近くに銭湯あるから温まって帰りなよ。ところでさ」
―――霊柩車の周りが、大騒ぎだった…て?そう云って今泉は、少し身を乗り出した。
「ああ、うん。あのね」
温かい珈琲を飲んで少し落ち着いた静流は、同じように身を乗り出した。
「雷に驚いた斎場の方が、棺を取り落としちゃったんだけど、棺の中にはね」
―――石しか、入ってなかったんだって。
豪雨が、一段と強く窓を叩き始めた。
新緑に碧く沈む石段を、足取りも重く踏みしめる。
『明日、社に来い』
シンプルなLINEが届いたのは、豪雨の葬儀から7日が経った頃だった。薬袋の初七日にあたる日だ。…当然、俺は身内でも親友でもないので参加しないのだが。
つい最近まで社の森をウロウロ彷徨っていた奉は、葬儀以後はうって変わって洞に引きこもっていた。一緒に選択している授業で小テストがある日に声を掛けたが『それ
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