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霊群の杜
火車
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い。奉なんて毎日ハッピーセットだ」
「……ふぅん」
「……いいんだぞ、あいつちょっとキモいよなと言っても」
実際に自分の姪っ子に執着されるキモさは格別だ。
「玉群は、どうしてる?」
今泉はさりげなく話題を変えた。葬儀に顔を出さなかった奉は、相変わらず書の洞で本を読み漁っている…わけではなかった。
「あいつは…ここ数日、少し変なんだよな」
出不精で洞の外にすら自分からは出ようとしないあの男は、今、境内裏の森を彷徨い歩いている。普段の運動不足が祟り、森から出てくる頃には死にそうな程息を切らして足をもつれさせているが、一息つくと再度ヨロヨロと森に入り込む。お前なにやってるんだと声をかけてみたが『こればっかりはねぇ…お前といえど、巻き込んでいいものかどうか』とブツブツ呟きながら、森の暗がりに消えていったのだ。巻き込まれる所以もないので、俺はそれ以上追及しない。
「追及しないのかよ」
ポテトの油を指先から拭いながら、今泉が云う。
「当たり前だ。十中八九、面倒事なんだから。俺はもう学んだんだよ。面倒なことには自分から関わらない」
『回避する能力』に長けた親父や榊さんに、散々注意された。今回、薬袋に関わってしまったこと、散々命に関わるトラブルに巻き込まれたことで、俺も懲りた。俺はもう、首を突っ込むのをやめた。今泉や静流と一緒に平和に、穏やかな大学生活を送るのだ。奉のお守は最低限でいい。あいつだって子供じゃないんだ。
「うーん…それでいいんだけどさぁ…」
先をちょっと咥えたポテトをぷらぷら動かしながら、今泉は視線を彷徨わせた。
「なーんかさ、少し、嫌な予感がするんだよなぁ」
「そら来た!そういうのだ。俺はそういうのを大事にしようと思うんだ」
「そういうの…?」
「嫌な予感だよ。お前がそう思うなら確実だ。俺はもう関わらないぞ」
今泉の『嫌な予感』は、かなりの確率で当たる。だのに回避する能力がないのだ。そういう狡さを感じないところが、こいつが周りに愛される所以なのかも知れない。だが俺は愛されなくていい。面倒事は沢山だ。
「うーん…」
ポテトは更にプラプラ揺れる。そして少しずつ短くなっていった。
「その、ほったらかしにした問題がさー」
一回り、大きくなって戻ってきたりして。そう云って今泉は、最後のポテトを齧って紙のケースを潰した。
「玉群ってさー、頭いいんだけど、なーんかこう…へんな基準で色々決定してない?」
ぐらり…と、俺の盤石の決意が揺らいだ。さすが今泉、痛い所を突いてくる。あいつは基本的に『人間的な』基準で物事を判断することはない。なにしろ『祟り神』なのだから。

「あ、結貴君!」

背後から、細く澄んだ静流の声がした。
「来てたのね」
振り向くと、突然の豪雨にガッツリやられて濡れ鼠と化した、我が恋人が立ち尽くして
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