火車
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俺は息を呑んだ。
「…本当だったんだな、あの話」
誰に云うでもなく、今泉が呟いた。
地盤沈下に巻き込まれたのは、薬袋を含めた数名。そのうちの4人が死亡。そして薬袋は。薬袋、だけは。
―――全身を岩やセメントに砕かれ、無残な遺体となって発見された、という。
だから、棺に窓がついていないのだ。
―――祭壇が、近づいてくる。
白い棺の中に、つい数日前には生きていた、薬袋の残骸が収まっている。…実感が、湧かない。
「終わった…のか」
じりじりと、歩を進めながら呟いてしまった。
薬袋と俺達の邂逅は『事故』以外の何ものでもない。出来れば関わり合いになりたくなかったし、あの男との関わりが今後一切断たれるのであればそれは『終わった』と言うのが正しいのだろう。…しかし。
こんな終わり方を望んでいたわけではなかった。
いや、終わるとすれば突然、しかも薬袋の死という形で…というのは散々予告もされていたのだ、そういえば。
俺は殺されかけているし、彼がやらかした事を考えれば、当然の報いでしかないのだが…。
今泉の足が止まった。抹香の煙が俺達を包んだ。…そうか、俺達の番だ。
焼香台の前で小さく息を吐き、香を三回落として手を合わせた。白い棺が視界の隅に入るが、敢えて棺を見ないようにする。あの中に変わり果てた薬袋が『在る』とは、どうにも受け止められない、否、信じられない自分がいるのだ。
手の甲で肘辺りを叩かれ、ふと我に返る。今泉が不審な顔で俺を見上げていた。俺は少し不自然な程の時間、焼香台の前でぼんやり突っ立っていたようだ。
「……悪りぃ」
踵を返して焼香台から離れる間に、今泉に「マック行こうぜ」と声を掛けられた。
この時はまだ、俺は気が付いていなかった。
この時の勘が、あながち外れてもいなかったことに。
低く分厚い雨雲が空を覆い、俺達がマックに駆け込むと同時に、この一帯は豪雨に見舞われた。なんというラッキー。今泉と居ると、こういうことがとても多い。前世になにか非常に大きい徳でも積んだのだろうか。低い遠雷が響く。そろそろ、雷にも見舞われるのだろうか。丁度いいから暫くはここで雨宿りすることにする。
窓際の、少しガタガタする席しか空いていなかった。それでも二人掛けの席をとれたのはラッキーだ。傾いた白いテーブルにハッピーセットを置いて、椅子をひいた。
「お前なんだそれ」
今泉が笑いを含んだ声で揶揄う。
「小梅が集めてるんだよ。プリキュアカード」
今週のハッピーセットはプリキュアのカードとシールのセットがおまけで付いてくる。どのプリキュアが出るかは完全ランダムな上に、今期のプリキュアは8人も居やがる。
「小梅の推しキャラ『キュアヒヤシンス』が出てくるまで、俺はハッピーセットを食い続けなければいかんらし
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