第69話 足踏みの原因
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ず、『長官の言うことなど聞いてられるか』と言わんばかりの爺様の言葉に、ニコルスキーは目に見えて気力を失っている。爺様が手振りで一同の解散を指示すると、俺は彼の肩を二度叩くと司令官公室から会議室に連れて行った。
「まぁ、かけたまえ。中尉」
ブライトウェル嬢が持ってきたピカピカに磨かれた珈琲カップと紙コップの対比を前に、ニコルスキーを会議室の席の一つに座らせた。勿論ニコルスキーの前にあるのは紙コップだ。従卒ですらこの塩対応をすることに、もうニコルスキーの心はズタズタだろう。グラスポットで珈琲を入れたブライトウェル嬢がそのまま俺の後ろに立っていることすら不審に思っていない。
「ニコルスキー中尉はファイフェルの一つ上だったと思うが、俺の記憶違いだったかな?」
「えぇそうです。彼とは面識があります。あ、勿論、小官はボロディン少佐のことを存じ上げております。第七八〇期生の卒業式の胴上げは記憶に残るものでした」
「じゃあヤンやラップ、ワイドボーンとも顔見知りだな?」
「彼らは強烈過ぎて……いえ、すみません」
「わかるさ。アイツら先輩を先輩と思っていないところがあるからな」
そういうと幾らかニコルスキーにも顔色が戻ってくる。だいたい爺様達も人が悪い。端から俺に押し付けるつもりなのだから、あんまり虐めてやるなとも思うのは歳が近い方への親近感からだろう。
「ニコルスキー中尉。貴官の任務について、当司令部がどう思っているかは、貴官が経験した通りだ」
「……はい」
「それを認識してもらった上で聞きたいんだが、イゼルローン攻略部隊の状況はいったいどうなっているんだ? 少佐として出過ぎたこととわかっているが、司令部はまともにイゼルローンを攻略しようと考えているのか?」
「それは! 流石に言い過ぎではないですか?」
「遅々として進まない日程、訓練宙域の変更、物資の過剰な差し押さえ、挙句の果てに追加で『進撃命令』。そちらが主攻方面だからといって泥縄に物事を進めるのはどうなんだ?」
帰ってきたのは沈黙だ。こちらにある程度の正論があり、自分達が無茶をしているというのも分かっているのだろう。彼もまた攻略部隊の幕僚ではあるが、まだ二三歳の中尉にできることなどほとんどない。問われるべきは司令官であるリーブロンド元帥の器量と幕僚上層部の作戦指導力だろう。助攻方面の参謀にすらまともに反論できないくらい悲惨な状況とみていい。
ただエル=ファシル攻略部隊の力を借りるために送り込んできたのが二三歳の中尉と言うのは、攻略部隊司令部がこちらをどれだけ軽く見ているかということの証左だ。本来であれば副参謀長クラスが来て、爺様に頭を下げるくらいしなければならない。寄せ集めの集団であることは間違いないが、モンシャルマン参謀長が静かにキレているのも当然のこと
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