第二章
[8]前話
寿司を次から次に注文して食べていく、その食欲に湯川も仰天した。
「な、何ですかあのお客様は」
「もう三十貫食べてるんですよ」
「三十貫!?あの体格で」
見れば一六〇ない位の背で身体は細い。
「そうなのですか」
「はい、これが」
「このままじゃネタが足りなくなります」
田中も言ってきた。
「凄い人ですよ」
「あの、フードファイターではないですね」
湯川はこのことを確認した。
「そうですね」
「はい、普通の大学生とのことです」
「それであれですか」
「そうです」
「どうします?」
真顔でだ、若い板前が湯川に聞いてきた。
「あの人は」
「食べるのを止めてもらうか」
「そうします?」
「いえ、食べ放題で来てもらったのですから」
湯川は若い板前に真面目な顔で答えた。
「最後まで、です」
「食べてもらいますか」
「お客様が満足されるまで」
「そうですか、では」
「このままです、ネタが足りなくなったらそれは仕方ありません」
そうなることを受け入れるというのだ。
「それでやっていきましょう」
「それでは」
若い板前も田中や他の板前達も頷くしかなかった。
かくしてその客は食べ続け何と五十貫食べた、そうして悠然と帰り店はこの日ネタ不足になってしまった。
後日湯川はインターネットで脅威の女性フードファイターデビューという動画を観てそのうえで田中に話した。
「この前うちに来た女子大生ですが」
「あの五十貫食べた」
「はい、その人ですが」
インターネットのユーチューブの動画を見せて話した。
「この通りです」
「ラーメン十人前ぺろりですね」
「フードファイターとしてデビューしてるんですが」
「そうした人だったんですね」
「ですからあれだけ食べたことも」
店のネタが不足するまでだ。
「当然ですね」
「そうですね、そうなることも道理ですね」
「そしてそんな人が来ることもありますね」
「そうですね」
彼女、ルソン山崎というフードファイターネームの彼女の食べっぷりを見て話した。そうしてその日のことを覚えたままだ。
湯川は彼女のことをよく知り合いに話す様になった、フードファイターはデビュー前からフードファイターであると。
恐るべき大食い女 完
2022・6・23
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