アインクラッド 前編
気まぐれとパーティー
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サキは既にパーティーになる可能性のあったキリトと別れている。彼はβテスターであり、強さも、知識も持っている。パーティーメンバーとして迎えるには問題ないどころか、普通だったら諸手を挙げて歓迎するところだ。
しかし、マサキは断った。彼と深く関わることで余計な面倒ごとに巻き込まれるのを恐れて。そしてその危険性は、今目の前に立っているトウマと名乗るプレイヤーも同じはずだ。
それなのに、マサキは断ることが出来ずにいた。彼の眼力に気圧された訳でも、つい先ほどまで自殺志願者だった彼を哀れんだ訳でもない。ただ、心の何処かで少しだけ、「こいつと関わりを持ってみたい」と思ってしまったから。
そしてその思いは、ただの気まぐれだと切り捨てる、あるいは、一時の気の迷いだと一笑に伏すには、少しだけ大き過ぎた。
(……まあ、たまには気まぐれで動いてみるのも悪くない、か)
考えてから、マサキは心の中で苦笑した。そんなことを思ったのは一体いつ以来であろうか。少なくとも、あの事故以来にはないであろう。マサキは今まで、自分は理屈屋であり、常に論理的整合性に基づいて行動する人物だと自己分析していたのだが、これではその認識を改めなくてはならない。ただの偶然が重なった結果だということも、否定は出来ないが。
(異世界に来たもんだから、考え方まで現実とは異なる、ってことか?)
そう思ったころには、マサキはもう吹き出すのを堪えるので精一杯だった。まさかこんなにも珍しいこと尽くしになるとは。それなら宝くじでも買っとくんだった、等と胡乱な考えは後を絶たず、その度に吹き出そうとする体とそれを阻止しようとする脳との間で全面戦争が勃発する。
「……マサキ? どうしたんだ?」
「……いや、なんでもない。改めてよろしく頼む」
ぶつけどころのない衝動をトウマへの笑顔に変換することによって吹き出すことを免れたマサキは、目の前に突如現れたパーティー勧誘のメッセージウインドウを操作し、それを受諾する。同時に視界の隅に“Toma”のアルファベットが出現し、目の前の男とパーティーを組んだという事実をまざまざとマサキに見せ付ける。マサキは振り返ると、再びゲートに向けて歩き出した。今までに感じたことのない隣に仲間がいる感覚と、それに対する不安、そして、それらが織り成すいつもと違う世界への、一抹の期待を胸に。
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