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展覧会の絵
第五話 愛の寓意その十一
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「そしてその周りにはです」
「様々な誘惑と糾弾がありますね」
「悪は必ず暴かれます」
 十字は今度は絵の右上の怒れる男を描いていた。そのうえでの言葉だった。
「そしてそのうえで」
「そのうえでとは」
「裁きがあります。神は全てを御存知なのですから」
「神はですか」
「はい、神はです」
 その存在はだというのだ。そしてだ。
 描きながらだ。十字はその絵の中にはいないがそれでも存在しているその存在のことを話したのだった。
「神はこの絵の中にもおられますから」
「凡神論ですね」
「はい、神は全ての中におられます」
 オランダの哲学者スピノザの思想もだ。十字は知っていた。
 そしてだ。彼はこの考えについてこう言ったのだった。
「僕はカトリックですが」
「それでもスピノザの考えもまた」
「はい、いいと思います」
「カトリックの教義はかなり独特ですね」
 先生は聖書をそのまま思い出しながら述べた。そこにカトリックの教義を重ね合わせて。
「オーソドックスって言うべきかな」
「カトリックの教義はですか」
「はい、そう思いますが」
「少なくともキリスト教の源流ではあります」
 カトリックこそがそうだとだ。述べる十字だった。
「アリウス派からはじまる」
「まさに歴史ですね」
「カトリック、いえキリスト教のですね」
「はい、そう思いますが」
「欧州の歴史は主の生誕からキリスト教にあります」
「キリスト教こそが心なのですね」
「そいうです。ですから」
 絵を描きながらだ。言う十字だった。
「この絵についてもです」
「神がいるのですね」
「そう思います。全てはキリスト教の中に」
 描いているのがギリシアの神々だとしてもだ。そうだというのだ。
「あるのです」
「では佐藤君が今描いているのは」
「人の罪、そしてです」
「神ですか」
「そうです。悪があり」
 そしてだというのだ。さらにだ。
「それを裁く善とその善を司る神を描かせてもらいました」
「この怖い顔の人が」
 その善だとだ。先生は絵の右上のその歳を取った男の顔を観ながら言った。そしてだ。
 そのうえで十字の顔を見る。彼の顔は確かに整っている。しかしだ。
 そこには表情がない。まるで人形の様に。先生はその顔を見てだった。
 微かに首を傾げさせた。そして言うのだった。
「楽しまれてますか?」
「絵をですか」
「はい、描かれることを」
「絵は全てです」
 表情は変わらないが。それでもだった。
 十字は描き続けそのまま先生に答えるのだった。
「そして僕にとっては」
「佐藤君にとっては」
「務めでもあります」

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