第二章
[8]前話
大学生になっていた麻実はオフに休みを取って家に帰ってきていた兄に唸る顔になってこう言った。
「あの、まさかね」
「プロとして通用するなんてかな」
「思わなかったわ」
こう言うのだった。
「正直言ってね」
「そうなんだ」
「ええ、その身体でね」
「そうよね」
母も言った、自分より少しばかり大きいだけの彼に。
「あんたの体格で通用するなんて」
「本当に驚いた、小さくてもプロ野球選手として通用するのか」
乳も驚きを隠せなかった。
「そうなのか」
「いや、小さいプロ野球選手もいるから」
真一郎は両親にはっきりとした声で答えた。
「元ロッテの小坂さんも元近鉄の大石さんも元阪急の福本さんも」
「皆か」
「一六五なくてもね」
自分と変わらない身長でもというのだ。
「活躍してるよ」
「どの人も知ってるけれどな」
父は名前と成績は知っていた。
「小さかったのか」
「そうだよ、門田さんだって一七〇あるかないかだったよ」
「南海のあの人もか」
「そうだったんだよ」
「小柄でも活躍出来る人は出来るのね」
母は考える顔で言った。
「そうなのね」
「ちゃんと自分の能力を発揮したらね」
「私ずっとスポーツ選手には体格が絶対と思っていたわ」
妹は自分の考えを素直に述べた。
「バスケの選手とかね」
「背が高いとか」
「高いだけいいってね」
「そうでもないよ、野球はバスケよりずっと背は求められないから」
「バスケは別ね」
「バレーとかね、ぶつかり合うラグビーやアメフトは筋肉や骨格も求められるけれど」
それでもというのだ。
「野球はね」
「そうしたスポーツ程求められないから」
「一六五なくても大丈夫だよ」
「活躍出来るのね」
「だからこれからも頑張るよ」
「ええ、そうしてね」
妹だけでなく両親も頷いた、そうして親子で日本一を祝ってパーティーをして楽しんだ。
真一郎は来年からもチームの主力選手として活躍した、長い間不動の一番セカンドであり五百盗塁に二千本安打も達成した。その彼を人は小さな大選手と呼んだ。
小柄でも問題にならない 完
2022・6・22
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