第二部 1978年
ソ連の長い手
ソ連の落日 その3
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ベルリン 国防省本部
「何ぃ!、ソ連が極東軍管区に招集をかけただと」
シュトラハヴィッツ少将は受話器越しに話される衝撃的な内容を信じ切れなかった
「ああ……、解った」
静かに受話器を置くと、室内にベルの音が響き渡る
心を落ち着かせるかのように、深い溜息をついた
「情報部から連絡だ……、間違いは無かろう」
シュトラハヴィッツ少将は、上座に居るハイム少将の方を向く
「どうやらシベリアのハバロフスクに動きがあったそうだ」
その一言にハイム少将は、衝撃を受ける
背筋を伸ばし、手摺を両手でしっかりと掴む
よもや、あの日本人か……
ハイム少将は一瞬俯くや、くつくつと喉の奥で押し殺すように笑う
そして、勢い良く椅子から立ち上がった
「これでソ連の関心は極東に動いた。
この虚を衝いて、一気呵成に行動に出る」
シュトラハヴィッツ少将は、彼の左側に居るポーランド人将校の方を振り向いた
彼は不敵の笑みを浮かべながら、ポーランド人に尋ねた
「一服付き合ってくれないか」
屋上にきた彼は、フランスたばこの「ジダン」を取り出すと男に差し出す
マッチを擦ると、煙草に火を点けた
深く吸い込んだ後、勢いよく紫煙を吐き出す
「背後に誰が居る」
じろりと男の顔を伺うシュトラハヴィッツ
「シュトラハヴィッツ……、モスクワとの対決なぞという青写真は、貴様には描けまい……」
彼は、押し黙ってしまう
男の問いに答えられずにいた
「答え辛かろう。無理に答えなくともよい」
男は、そう言うと顔を上げる
その顔には、今にでも夕立が来そうな暗い影を負っていた
「だがな、俺もお前も軍人だ。一番使いやすい存在……。道を見間違ったら、そこで終わりだ。
前非を悔悟するような真似は出来ない」
不敵の笑みを浮かべ、俯き加減の顔を上げる
「軍人なら、そうであろう」
男の方を振り向き、流し目で見つめた
「惚れ込んだのさ……、年甲斐もなくな」
燃え盛る白いフィルター付きのタバコを口から遠ざけると、立ち竦む
「シュトラハヴィッツ……」
男を室内に送り返した後、シュトラハヴィッツ少将は、一人もの思いに耽る
紫煙を燻らせながら、この数日間の事を思い起こす
シュトラハヴィッツ少将は、東欧各国を非公式訪問し、軍関係者との折衝を繰り返した
その道すがら寄った東欧の雄・ハンガリー
首都・ブダペストを訪ね、彼はある人物との会見に及ぶ
「お久しぶりです、同志大将」
「シュトラハヴィッツか。暫くぶりではないか……」
白髪頭で老眼鏡を掛けた、どこにでもいそうな好々爺といった風情の男
ツイードの背広でも着ていたら、百姓とでも言い張れたであろう
茶色の将校用夏季
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