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八条学園騒動記
第六百六十一話 朝に思うことその九

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「そうした面ばかり見てじゃ」
「森鴎外をいいとか言うんですね」
「目をきらきらとハートマークさえ出してな」 
 そのうえでというのだ。
「チートよチートなどとな」
「チートですか」
「凄過ぎるとな」
「言ってるんですね」
「しかしこうした一面もあったのじゃ」
 森鴎外にはというのだ。
「というか医師としては最低であった」
「自分の学説にこだわって多くの人を死なせた」
「しかも戦局にも影響を与えかねなかったのじゃ」 
 そうでもあったのだ。
「そこまで陸軍では脚気患者が多かったのじゃ」
「亡くなる人も多くて」
「亡くならんでも動けなくなる」
 博士はトーストを食べながら話した、その食べると脚気にならずに済むそれにバターをたっぷりと塗って食べる。バターはトーストの熱で溶けている。
「脚がむくんでな」
「それが脚気の症状でしたね」
「その為戦力が落ちるのじゃ」
 軍隊に脚気患者が多く出るとだ。
「だから陸軍の首脳部は麦飯導入派であったのじゃ」
「軍を預かる者として当然ですね」
「負ける可能性があるからのう」
「けれど森鴎外はですね」
「あくまで自説にこだわってじゃ」
「陸軍は白米のみでいいとしたんですね」
「そして最後は首脳部も怒ってな」 
 脚気患者のあまりもの多さにだ。
「麦飯を送らせたのじゃ」
「森鴎外の主張を無視して」
「そうしたのじゃ、わしは森鴎外本人と会ったこともある」 
 ベーコンを食べつつ話した。
「実はな」
「そうなんですか」
「お世辞にもよき者ではなかった」
「人間としてはですか」
「不遜で如何にも高みにいるとな」
「そんな風だったんですね」
「しかもやたら権威や地位にこだわる」
 そうだったというのだ。
「爵位も欲しがっていてな」
「ああ、当時の日本貴族というか華族もいましたね」
「それで男爵になりたがっておった」
「意外と欲が深かったんですね」
「地位や権威、権勢にはな」
「そんな人だったんですか」
「しかも自棄にドイツ崇拝が強く」 
 このことがドイツ留学の結果であることは言うまでもない。
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